第七章


 カラクに頼まれた荷物は難なく無事に届けることができた。
 荷物を所定の場所に降ろし、後は受取人が自由に取りに来るように段取りを済ませ、全ては片付いた。
 一仕事終えてやり遂げた満足感を得て、仕事の息抜きにクローバーを除いた一同は、初めて訪れたコロニーの内部を散策してしていた。
 家の内装を住むものが好みに合わせて変える様に、各コロニーも住むものたちの生活習慣と文化が色濃く出てくる。
 ここは特にこれといった奇抜な特色がない変わりに、ごく普通の民家が集まって、誰もが細々と質素に暮らしている様子だった。
「俺らが住んでたコロニーとはまた全然違うところだな。ここは全てがお下がりとお古でできたような場所だ」
「ジッロ、それは失礼だよ。それぞれ事情があるんだから、皆息苦しくコロニー内で生活しているところは同じだろ」
「でもさ、ここは貧富の差がありすぎるって感じだ。一応ネオアースは最低限の管理はしてるはずだぜ。このコロニーは全くネオアースの息がかかってない雰囲気がする。情報を取り入れるための通信設備や、生活向上のための便利な機械などの最新の設備が全くない」
「言われてみれば、そうだけど、まあ重力制御装置、酸素注入空気清浄機、水、食料があれば、人間はなんとか生きていけるでしょう。却ってこういうシンプルな生活が好きな人もいるんじゃないの」
 無機質な箱のようなどれも良く似た住まいが固まっている。
 道はガタガタで塗装されず、車といったものは一切通らずに、馬やロバなどの動物を使って人や物を運んでいた。
 その代わり、木や草といった緑を所々に植えて、自然を取り入れていた。
 それも徹底してないので、外見がそろわないちぐはぐさがあった。
 コンクリート上に汚く生えた雑草をイメージしてしまう感じだった。
 クレートは一番前を歩き、その後をジッロとマイキーが並んで歩いていた。
 キャムは一番後ろ、少し離れて鳥笛を熱心にいじくっていた。
「おいキャム、周りに注意を向けないと、こけるぞ」
 ジッロに言われて前をみたとたん、でこぼこした所で躓いて、本当にこけてしまった。
「うわぁ」
 派手にこけ、手に持っていた鳥笛がどこかへ飛んでってしまった。
 ジッロとマイキーが慌てて駆け寄ってキャムを起こしてやる。
「なんでその通りにこけるんだよ」
「ジッロが余計な事いったからこうなったんじゃないの。大丈夫か、キャム」
 マイキーが汚れている箇所を手ではたきながらキャムを庇ってやった。
 ジッロよりも手厚くキャムを労わっているマイキーの姿はジッロには気に食わなかった。
「だから、大丈夫ですって。もうどうして二人とも僕を子ども扱いするんですか!」
「だって、危なっかしくて心配だから仕方ないじゃねぇか」
 ジッロの目は真剣にキャムを見つめていた。
 キャムの突っ張っていた勢いが一瞬にして消えた。
「ジッロ……」
 キャムはいつも何かと振り回して心配をかけているからだと思い、なんだか自己嫌悪に陥ってしまった。
 だが、マイキーはそのときジッロの気持ちが自分と同じではないかと勘ぐった。
 キャムがジッロを素直に見つめ返している姿にやきもきする。
「そうですよね。僕が悪いんですよね。すみません」
「おいおい、ジッロ、そうキャムをいじめてやるなよ。そんな態度で反省を求めるなんてちょっと卑怯だぜ。そうだよな。キャムはもう一人前の男だよな」
 マイキーはジッロの気持ちに水をさし、ジッロは男と言う言葉にやっぱりぐっと力が入るほど抵抗する。
 そしてマイキーも自分がそう認めてやっても、なんかしっくりこない言葉で、同じように引っかかっていた。
「あっ、ぼ、僕はやっぱりまだそこまでは」
 キャムも男のフリをしてるものの、一人前の男といわれても嬉しくなかった。
 三人は『男』という言葉にどうしたらいいのかわからないまま、しゅんとしてしまった。
「君たち、もしかしてこれを探してるのかい。さっきなんか私の頭上に飛んできたんだけど」
 側を通りかかった男が鳥笛を差し出してきた。
 こけたときにどこかへ飛ばしてしまったと思い出し、キャムは何度も丁寧に礼をいった。
 男ははにかみながら、礼には及ばないと謙遜して去っていった。
 がっしりとした体つきに、濃い眉毛の堀の深い顔と素朴な逞しさが、男らしく感じた。
「あれこそ、真の大人の男なんでしょうね」
 キャムのポロッと出た言葉に、ジッロとマイキーはつい自分とその男を見比べていた。
「あっ、その別に意味はありません。なんていうのか、僕もしっかりしなくっちゃって思って。ハハハハハ」
 乾いた笑いが続くときは何かを隠したいわざとらしさが響く。
 ジッロとマイキーはふと何かを感じた。
 ──もしかしてキャムは男の方が好みなのか……
「あっ、クレートとあんなに離れちゃいましたよ」
 キャムは追いつかなくてはと思う気持ちからつい足が動いて走ったが、ジッロとマイキーがぼーっと立ったままついてこない。
「どうしたんですか? 早く行きましょう」
 もう一度戻って、ジッロとマイキーの腕を掴んで、キャムは引っ張った。
 その手を見れば指先は細く、華奢で白かった。
 キャムに触れられると、敏感に体の中のスイッチが入る。
 ジッロもマイキーもどうしていいのかわからないでいた。
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