第九章


 キャムはジッロとマイキーの間に挟まれ、どちらからも手をつながれて歩いていた。
「あの、なんか僕、お子様扱いみたいなんですけど」
 二人はもう気持ちが高まり我慢の限界に来ていた。
 キャムの手をしっかり握ることにも恥ずかしさなどなかった。
 ホテルから出て、その隣のボタニカルガーデンと称されている温室に立ち寄り、三人はずっとその調子で歩いていた。
 時折ジッロとマイキーが強くにらみ合っているのを感じ、キャムは首をかしげた。
「二人ともどうしたんですか。また喧嘩したんですか?」
 二人は急に立ち止まり、顔を強張らせた。
「やっぱり図星ですか。何が原因ですか。僕を出汁に使うのはやめて下さい」
 キャムは二人に握られている手を振り払った。
「あーもうこうなったら正直にいうよ」
 マイキーがキャムに向き合う。
「待て、俺が先だ」
 ジッロも向かい合った。
 キャムは二人の迫力に圧倒されて少し後ずさる。
「俺、キャムの事が好きだ!」
 二人同時に告白されたが、キャムはきょとんとしていた。
「えっ、僕も、二人のこと好きですけど」
「そうじゃなくて、男と男として…… あれ?」
 マイキーがなんか不自然さを感じてしまった。
「だから、男同士の仲として…… あら?」
 ジッロもなんか響きがおかしく感じた。
「どうしたんですか?」
 「とにかくだ。性別関係ないってことなんだよ」とマイキーがいうと、「男でもいいってことなんだ」とジッロも強調した。
「えっ?」
「キャム、お前が大好きだ。ずっと側にいてくれ」
 ジッロはキャムを抱きしめた。
「ジッロ、ずるいぞ、キャムの事を本気で好きなのは俺の方だから」
 マイキーがジッロからキャムを奪って抱きしめた。
「ちょ、ちょっと待って下さい」
 二人に奪い合われるように抱きしめられ、キャムはやっと気がついた。
 ジッロとマイキーは本気で自分の事を好きになっている。
 しかも男と思った上で、それもお構い無しに好きになってくれていた。
「キャム、どっちか選べ」
「そうだ、それが一番いい」
 二人に手を差し伸べられて、キャムはどっちの手も選べない。
「無理です。どっちも大好きだし、選べません」
 真剣に見つめて答えを求めてくるジッロとマイキー。
 二人の気持ちは素直に嬉しい。
 男のフリをしていても、自分に好意を抱いてくれる方が珍しいというもんだった。
 最初は驚いて困惑していたが、自然に二人の気持ちが受け入れられる。
 キャムは手を思いっきり広げて、二人同時に抱きついた。
「これが僕の答え。どっちも大好きだから。ジッロとマイキーは僕にとって大切な人だから。どっちか一人だなんて選べない。二人のこと好きじゃだめなの?」
 顔をあげて、二人の顔を見たとき、どちらもやはり面食らっていた。
 どのように処理をしていいのか考えている。
 そのうちジッロとマイキーはお互い顔を合わせて、様子を探っていた。
「マイキー、なんていうのかさ、こういうのもアリかな」
「何がだよ」
「三人で仲良くお付き合いとかさ」
「うーん。結局はあの狭い船の上ではいつも顔を合わすしな。どっちみち同じことってことなのかな」
「男同士の恋って、複数オッケーかな」
「俺たちが納得したらオッケーかもよ」
 二人はキャムを見下ろした。
「しゃーねぇ、三人でもいっか」
「だよね」
 それを聞いてキャムは笑っていた。
 でもこのあと自分は居なくなってしまう。
 そのことが分かっていたのでキャムは二人にお礼をしたかった。
「ねぇ、二人ともちょっとしゃがんで」
 ジッロとマイキーはキャムの目線まで腰を低く落とした。
 キャムは一人一人のほっぺにキスをした。
 ジッロとマイキーは突然のことに照れくささを感じながら、少し頬を赤らめる。
 男にキスされて喜ぶのも変だとどこかで感じつつも、それがキャムだからキスされて嬉しいんだと素直に感じていた。
「なんかさ、変な気分だぜ」
「俺もさ」
 ここで自分が女である事を言えばいいのだろうかと、キャムが迷っているとき、先の方で知ってる顔を見たような気になってはっとした。
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