第九章
3
キャムはジッロとマイキーの間に挟まれ、どちらからも手をつながれて歩いていた。
「あの、なんか僕、お子様扱いみたいなんですけど」
二人はもう気持ちが高まり我慢の限界に来ていた。
キャムの手をしっかり握ることにも恥ずかしさなどなかった。
ホテルから出て、その隣のボタニカルガーデンと称されている温室に立ち寄り、三人はずっとその調子で歩いていた。
時折ジッロとマイキーが強くにらみ合っているのを感じ、キャムは首をかしげた。
「二人ともどうしたんですか。また喧嘩したんですか?」
二人は急に立ち止まり、顔を強張らせた。
「やっぱり図星ですか。何が原因ですか。僕を出汁に使うのはやめて下さい」
キャムは二人に握られている手を振り払った。
「あーもうこうなったら正直にいうよ」
マイキーがキャムに向き合う。
「待て、俺が先だ」
ジッロも向かい合った。
キャムは二人の迫力に圧倒されて少し後ずさる。
「俺、キャムの事が好きだ!」
二人同時に告白されたが、キャムはきょとんとしていた。
「えっ、僕も、二人のこと好きですけど」
「そうじゃなくて、男と男として…… あれ?」
マイキーがなんか不自然さを感じてしまった。
「だから、男同士の仲として…… あら?」
ジッロもなんか響きがおかしく感じた。
「どうしたんですか?」
「とにかくだ。性別関係ないってことなんだよ」とマイキーがいうと、「男でもいいってことなんだ」とジッロも強調した。
「えっ?」
「キャム、お前が大好きだ。ずっと側にいてくれ」
ジッロはキャムを抱きしめた。
「ジッロ、ずるいぞ、キャムの事を本気で好きなのは俺の方だから」
マイキーがジッロからキャムを奪って抱きしめた。
「ちょ、ちょっと待って下さい」
二人に奪い合われるように抱きしめられ、キャムはやっと気がついた。
ジッロとマイキーは本気で自分の事を好きになっている。
しかも男と思った上で、それもお構い無しに好きになってくれていた。
「キャム、どっちか選べ」
「そうだ、それが一番いい」
二人に手を差し伸べられて、キャムはどっちの手も選べない。
「無理です。どっちも大好きだし、選べません」
真剣に見つめて答えを求めてくるジッロとマイキー。
二人の気持ちは素直に嬉しい。
男のフリをしていても、自分に好意を抱いてくれる方が珍しいというもんだった。
最初は驚いて困惑していたが、自然に二人の気持ちが受け入れられる。
キャムは手を思いっきり広げて、二人同時に抱きついた。
「これが僕の答え。どっちも大好きだから。ジッロとマイキーは僕にとって大切な人だから。どっちか一人だなんて選べない。二人のこと好きじゃだめなの?」
顔をあげて、二人の顔を見たとき、どちらもやはり面食らっていた。
どのように処理をしていいのか考えている。
そのうちジッロとマイキーはお互い顔を合わせて、様子を探っていた。
「マイキー、なんていうのかさ、こういうのもアリかな」
「何がだよ」
「三人で仲良くお付き合いとかさ」
「うーん。結局はあの狭い船の上ではいつも顔を合わすしな。どっちみち同じことってことなのかな」
「男同士の恋って、複数オッケーかな」
「俺たちが納得したらオッケーかもよ」
二人はキャムを見下ろした。
「しゃーねぇ、三人でもいっか」
「だよね」
それを聞いてキャムは笑っていた。
でもこのあと自分は居なくなってしまう。
そのことが分かっていたのでキャムは二人にお礼をしたかった。
「ねぇ、二人ともちょっとしゃがんで」
ジッロとマイキーはキャムの目線まで腰を低く落とした。
キャムは一人一人のほっぺにキスをした。
ジッロとマイキーは突然のことに照れくささを感じながら、少し頬を赤らめる。
男にキスされて喜ぶのも変だとどこかで感じつつも、それがキャムだからキスされて嬉しいんだと素直に感じていた。
「なんかさ、変な気分だぜ」
「俺もさ」
ここで自分が女である事を言えばいいのだろうかと、キャムが迷っているとき、先の方で知ってる顔を見たような気になってはっとした。