第九章


「やめるんだ、クローバー」
 クレートの一声で、寸前でそれは止まった。
「どうして反対するのです。この男はどっちみちクレートを殺すつもりだったのですよ」
「しかし、クローバーが殺人を犯していいということではない。この男にはいずれ天罰が下ることだろう。とにかく今は縛るだけにしておこう。処分はその後だ」
 クローバーは自分達がつながれていた電子手錠で、ジュドーと付き添いの男達を縛り上げた。
 ジュドーは恐怖で失神し、男達もすっかり伸びていた。
 そこに彼らを置き去りにして、一同は部屋を出た。
「ジッロ、マイキー、大丈夫か?」
 二人は殴られたせいで、顔がはれ、口を切って血が出ている。
 痛々しいが、なんとか笑顔を見せて頷いていた。
「とにかく、キャムを見つけないと。ジュドーも気がつけば、ずっとあの場所で大人しくしてないだろう」
「だけどさ、クレート、俺にはさっぱりわからないんだけど、一体どうなってんだ? キャムがPOアイランドに帰るってどういうことだ」
 ジッロは不安そうに見つめている。
 マイキーも全てが知りたいと、クレートの目を覗き込んでいた。
 エレベーターに乗り込み、ホテルのロビーへと向かう間に、キャムがエイリー族の血を引くこと、そしてクローバーがキャムを安全にネオアースへ連れて帰る使命を帯びてたことを伝えた。
「そうだろ、クローバー」
 クローバーは静かに頷く。
「じゃあ、クローバーは最初から記憶を失ってなかったってことなのか?」
 ジッロが訪ねると、申し訳なさそうに弱く頷いた。
「キャムはエイリー族ったのか」
 マイキーも信じられなさそうに、クローバーに再度確認する。
「キャムは、真実を知ったとき、それで悩んでました。だから何も言わずに、ここで皆さんとお別れするつもりでいたのです」
「何言ってんだよ、例えキャムが誰であっても、俺へのキャムへの愛はかわらねぇぜ」
「そうそう、俺だって変わらないさ」
「ジッロ、マイキー、ありがとう」
 クローバーはキャムに聞かせたいと思っていた。
 そしてエレベーターがロビーに着いた。
 ここからどうやって、キャムを探せばいいのか、乱杭歯男を見つけようと、もう一度ボタニカルガーデンへ足を運ぼうとした。
 しかし、すでに閉店で入り込めない。
 何か情報がつかめないかと、辺りをうろちょろして、路地の間をはいっていくと、その裏手に従業員で入り口があるのをみつけた。
 仕事を終えた、従業員達が、ポツポツと出てくる姿があった。
 手当たり次第に、クレートが乱杭歯男について聞くも、誰も知らないと首を傾げるばかりだった。
 一同は悔しい思いを抱きつつ、さらにもっと詳しい情報を求めて、ジュドーが取り仕切っている事業全てに聞き込みをしようと踵を返したときだった。
「おじさん、ずっと前にキャムを探してた人だよね」
 振り向けば、ロビンとカナリーがそこに立っていた。
「アクアロイドがいたから、あたい覚えてたんだ」
 カナリーがアクアロイドを見つめていた。
「俺たち、キャムがアイツに連れて行かれるの助けられなかったんだ。ごめんなさい」
 ロビンが謝ると、カナリーも頭を垂れて悲しんでいた。
「キャムは一体どこに連れて行かれたか知っているかい?」
「多分、闇市に連れて行かれたんだと思う。あそこは人身売買にはもってこいの場所だから」
「アイツ、かなりキャムに対して恨みもってたみたいだった。早く助けに行ってあげて。あそこで売られたら、もうどこへ連れて行かれるかわかんなくなっちゃうよ」
 ロビンとカナリーの話を聞いて、クローバーはふと自分とすれ違いになった宇宙船の事を思い出していた。
 まさかと思いながらもその可能性があるとクローバーは確信した。
「クレート、この先に小型船を用意してます。それをそこに置いたとき、私はキャムの乗せた船とすれ違ってるかもしれません。その船の特徴はまだ覚えてますので、すぐ追いかけましょう」
「わかった。ジッロとマイキーは我々の船ですぐに追いかけてきてくれ」
「ラジャ」
 二人は怪我の痛さも忘れ、自分達の船へと走っていった。
「ロビン、カナリー、ありがとう。キャムは必ず助けてくる。だから気にするな。そして後で、君たちも必ず助けにくるから」
 ロビンとカナリーの顔が晴れやかになり、大きく頷くと瞳が希望に溢れて輝きだした。
「それから、私はまだおじさんじゃないから」
 最後にそれを伝えると、クレートはクローバーに案内されて、小型船へと急いで行く。
 クレートの心の中は、再びキャムのことで一杯に膨れ上がった。
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