第一章
3
桜が咲く春の訪れを感じる中で、真新しい制服を身にまとう私――木暮成実は、晴れて高校一年生となった。
見知らぬ顔ぶれがほとんどのクラス。
みんな新たな友達を探そうと和気藹々としているのに、私は一人机についていた。
「ナル、おはよう」
私の中学からのニックネームを知るものがいた。
棚元明穂だ。
私が苦手としていた、中学三年の時のクラスメート。私は彼女と同じクラスになってしまった。
私が適当に返事すると、明穂は何かを察して少し気まずくなった。
「ナル、またよろしくね」
それでもにこっと微笑む。
屈託のない笑顔が私には罪悪感を抱かせる。
明穂は挨拶だけすると、どこかへと行ってしまった。
高校一年生になった明穂は能天気な明るさに輪がかかり、明穂の事をまだ良く知らない色んな中学から集まった生徒は先入観持たずにそれを素直に受け入れている。
みんなノリもよく、笑い声が聞こえる教室は絵に描いた様に楽しそうに目に映る。
高校生活を楽しもうとしている意気込みが見える。
中学生とは違う少しだけ大人になった気持ちに心躍らされているようだ。
明穂はその波に乗ってすぐに友達を作り、早速の高校生活を楽しんでいた。
まるで水を得た魚のようだ。
それとは対照的に私は、どんよりとして暗い。
私は受験に失敗してしまった。
あれだけ行きたかった飛翔国際高校に受からなかったのだ。
私の人生が終わった。
合格発表の日、緊張して学校に赴き、ハラハラとしながら自分の番号を何度も探したが、何度見てもなかった。
周りはキャーキャーと歓喜が飛び交い、友達と手を握って空にも飛ぶ勢いで大喜びしているのに、私だけが存在を否定され露骨に穴に落とされていた。
悔しくて、悲しくて、大声で泣き叫びたいのを必死で我慢していたその時、小渕司の満面の笑みを見てしまった。
すぐに目を逸らすべきだった。
棒立ちになって羨望の眼差しを向けている私に彼も気がついて目が合ってしまう。
もう私は自分の感情が抑えられなくて、小渕司の前で目がじわっとするや否やみるみると大粒の涙がこぼれていった。
もって行きようのない感情はやがてどうしようもない嫉妬に変わり、私は小渕司を腹いせに睨みつけてしまった。
彼には何の責任もないというのに、私は自分が負けてしまった事が腹立たしくて八つ当たりしてしまった。
どうせ、サッカーのお陰でしょ。
本当はそんなに勉強なんてできないんでしょ。
小渕司は私のその態度にどうしていいのか分からず戸惑っていた。
声をかけようとしたのか、口元が少し動いたが、私は素早く踵を返して逃げた。
あまりにも無様でかっこ悪い。
学校を離れ一人になってからそれがいかに馬鹿げたことであったか、自己嫌悪に陥って暗く落ち込んでしまった。
どれだけ泣いただろう。
あの時のことはショックが強すぎて、春休みをどう過ごしたか記憶が曖昧だ。
結果を聞いた父も母も慰めてくれ、私立の高校があるじゃないかと元気つけようとしてくる。
「でもお金が」
「何を言ってるの。それくらいなんとかなるわよ。心配しなくていいのよ」
母は気を遣って言ってはくれているが、お金に関しては安いに越したことはない。
落ちてしまった後、どうにでもなれと私はヤケクソも入っていた。
そして安井高校が定員割れをして二次募集をしてる事を知って、私はすぐさま再び受験した。
そして難なく受かり、私はそこへ通うことになった。
お金の事を考えるとそうせざるを得なかったけども、いざ入学してみると毎日が楽しくない。
心の中で私は叫ぶ。安井高校なんて大嫌いだ。
それは家に帰る度、飛翔国際高校の生徒と家の近所ですれ違うと益々不満は大きくなる。
行きたかった高校が目の前にあるだけ、それを見ながら違う高校へいく自分が惨めで仕方がなかった。
私の卑屈な高校生活が始まった。