第二章
3
合格発表の日。
テストは完璧にこなしたはずだ。
あのノートに書いてあった通りの問題が出て、私は何度もそれに目を通し丸暗記した。
答えを全て知ってるのは後ろめたい気もしたが、これは私に与えられたチャンス。
正しい道に進んだんだ。
That’s right!
英語で自分を元気つけてみる。
そして張り出されている合格者の数字の中から自分の番号を見つけた。
「あった!」
今度は違う意味で涙がこぼれた。
泣いても口元は綻んでにやけがとまらない。
指先で涙を拭っていると、小渕司が遠慮がちに私の前にやってきた。
「それ、嬉し泣きだよね」
「うん」
「おめでとう」
「小渕君も合格だよね」
「うん」
「おめでとう」
お互い照れてしまった。
この時の小渕司のはにかんだ笑顔がかわいい。
人気者なのに、全然気取らず親切で優しい。もてて当たり前だ。
そんな人に私は失礼な態度を取っていた。
厳密にはそれはもう起らなかったことになっているけど、私だけが思い出して少し苦しい。
目の前で小渕司が私を見て笑っている。少しだけ楽になる。
小渕司と一緒に喜び合う二度目の合格発表はなんて贅沢なんだろう。
また感極まって泣けてくる。
その時、人ごみの中に茶色い犬がちょろちょろしているのが見えた。
「あっ、犬だ」
私が呟くと、小渕司は私の見ている方向に視線を向けた。
「こんなところに犬?」
一瞬のことであり、人が多すぎて見失ってしまった。
「青い首輪をつけた茶色い犬がいたように見えたんだけど。見間違えたのかな」
「目が潤んでるし、鞄か何かをそう見間違えたんだよ」
「そうかもね」
「じゃあ、僕これで失礼するね」
去りかけた小渕司を私は引きとめた。
「小渕君、サッカー部に入るの?」
「えっ、ああ、その予定だけど。もしかして、君もサッカー部に入部するの?」
「えっ、そんな、私は女だし、サッカーなんでできないし」
「マネージャーは募集しているよ」
笑いながら、小渕司は去っていった。
「サッカー部のマネージャーか」
私はなんだか考え込んでしまう。
小渕司を怪我から守るためにも私もサッカー部に入ったほうがいいのかもしれない。
その時、うなだれて学校を後にする菅井を見てしまった。
やっぱり彼は落ちた様子だ。あの悲しそうな背中が物語っていた。
でも彼には高遠という友達ができる。
楽しく過ごすところはすでに知っている。
そこには私は存在しないけど、なかったことになってしまった亀ちゃんが担任のもう一つの私の所属していたクラス。
みんなそれぞれの高校生活を送っていくはずだ。
そして私も。ここからは真新しい私の高校生活が始まる――