第二話
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夜が明ける薄暗い中、ローズは城へと帰って行った。
吾郎は一人洞窟に取り残され、暫くは身を隠すためにここから動けなかった。
誰も居ない静かな場所で揺れ動く蝋燭の光を見つめていると、心細さと虚しさが不安と混じり気分が滅入ってくる。
さらにダグとはすれ違ってしまい、友達を失くしてしまった寂しさを感じていた。
普段は自分の部屋にずっと閉じこもっていても平気だったのに、人と常に触れ合って楽しい思いをしていたこの異世界で一人となると落ち込んでいく。
ダグ、アネモネの家に帰りたい。
今まで出会った女性とまた楽しく会話をして、ドキドキを味わってみたい。
もっとヒーロー感を感じてみたい。
思わぬところで障害にぶち当たり、吾郎は思うように行かないことにイライラしてしまう。
だが突破口があるはずだと、まだまだこの世界で自分の出来る事を考えて決して諦めることはなかった。
吾郎自身、ニートで引きこもりだったときの自分を忘れていた。
ここでは正義感に溢れた戦士ゴロだった。
そして今一番やらねばならないことは、戦争を回避して話し合いで解決することだった。
必ず自分が役に立つと信じて、吾郎は洞窟から出るとゆっくりと昇ってくる眩しい朝日を体一杯受けていた。
こっそりと城に戻ったローズは、これからの事を考えていた。
吾郎が牢屋からいなくなった事はすぐにも大騒ぎになり、これから城がゴタゴタしてくる。
吾郎が話していたように、第三者がこの状況をかき混ぜているとなると、この城にも裏切り者がいる可能性が出てきた。
容易に人を信じる事が出来ず、全てを自分一人でやり通さなければならない責任感。
寝不足もあり、ローズは重荷を感じるように体が少しだるかった。
約束の日は明日に迫っている。
その間になんとしてでも王を説き伏せねばならなかった。
邪魔なのはいつも側にいるあのイグルスだった。
吾郎を牢屋に入れたくらい、この話には難色をしめしている。
これでは例え血の繋がった娘との話し合いも、王の立場を協調されて簡単にイグルスに丸め込まれる可能性があるかもしれない。
政治の駆け引きはイグルスの方が断然頭が切れる。
なんとかして平和にアゼリアと話し合いを持ちたいと考えていると、知らずにベッドの上に横たわって寝てしまった。
起きたときには、すでに昼をまわっていて、その頃、王はイグルスと一緒に今後の戦の対策を立てていた。
母親に相談しようかと思ったが、その母親も危険を避けるように姿を消していた。
そして城の中は逃げた吾郎の事で騒ぎが大きくなっていた。
「何、ゴロが逃げただと」
イグルスの耳にも入ったとき、不快感を露にする表情が周りの兵を怖がらせた。
「探せ、探すんだ。やむを得ないときは殺しても構わぬ」
そんな命令を出していた。
「イグルス、なぜゴロが牢屋に入れられ、そのような事態になっておるのじゃ?」
何も知らない王は話が飲み込めないと、側で不思議な顔をしていた。
詳しい事を話せないために、イグルスは掟を破ったということで上手くはぐらかした。
それでも王は吾郎が気に入っていたので、それくらい王の特権で許すという始末だった。
「とにかく、陛下、ここはそれよりももっと大事な事がありますぞ。陛下はどうぞお気になされることなくご自身のお勤めをなさって下さい」
イグルスは誤魔化すのに必死だった。
遠くから様子を伺うようにローズも自分の父親と接近できるチャンスを探していた。
城の中はごった返しになり、万が一ということでローズの周りにも護衛がつきまとい、中々父親の元に近寄れずに困り果てていた。
そうしているうちにこの日が終わっていく。
もう明日には話し合いをしにアゼリアがやってくるというのに、まだ土台すら作れていない。
一方で吾郎もこの調子では城に出向くわけにも行かず、焦りの中ずっと思案していた。
そして危険を顧みず覚悟を決め、吾郎は立ち上がった。