第二話


 それから暫くして、吾郎はダグにお城へと連れて行かれ、敵が攻め込んできたときのための訓練に借り出されることとなる。
 お城で沢山の兵士と顔を合わせ、力の加減を見る能力テストにまず参加させられた。
 吾郎の剣の腕前もさることながら、暴れて手に負えない馬でさえも乗りこなし、周囲の注目をどんどん浴びていく。
 吾郎はこの世界で与えられた自分の力を充分に発揮することで目立つようになり、国王にも名前が知れ渡ることとなった。
 吾郎の噂を聞いた国王は吾郎を呼び出し、直に話をすることで自信溢れる発言からその有望さに益々気にいってしまい、ダグと共に兵の中で重要ポジションを与えた。
 もちろんその役職に比例して、それに担った給料ももらえるようになった。
「さすがだな、ゴロ。自分の家からこのような優秀な兵を国王に紹介できるなんて鼻が高いぜ」
「何言ってんだ。ダグだって、俺と変わらぬ腕前のくせに」
 お互い謙遜しあいながらも、吾郎は全てが上手く行くこの世界がたまらなく楽しくて、笑いがとまらなかった。
 こんな夢みたいな出来事を現実にしてくれたヨッシーに会ってお礼をいえない事が残念でならない。
 自分の妄想の世界が強固だといっていたが、そのお陰で今の人生があると思うと、妄想も役に立つと思わずにはいられなかった。
 そしてまたここでも、ロマンスの兆しがみえてくる。
 吾郎が城に死角がないかと庭付近を調べていたときだった。
「そなたね、父上がとても強いと褒めちぎる兵というのは」
 艶々なピンク色の髪が腰辺りまで届き、それと合わせる様なこれまた淡いピンク色の裾がふんわりと広がったドレスを着て、頭上には宝石がついたティアラをつけたかわいらしい女の子が吾郎の目の前に現れた。
 まさにお姫様に相応しい存在感。
 すぐにそれが国王の娘だということがわかった。
 吾郎はアニメから飛び出したその美少女に暫し釘付けとなっていた。
「そなた、頭が高いぞ。私の前でそのような態度を取るとは失礼な」
 身分の高いお姫様の相手など吾郎はした事がないので多少戸惑ったが、自己流に片膝を曲げて地面につけて頭を下げてみた。
「大変失礼しました。あまりの麗しきお姿に見とれてしまい、ついご無礼な態度になってしまいました。これも皆あなた様が美しすぎるからでございます。心奪われて気を失うほどでございました」
 どこからこのような言葉がスラスラ出たのか、吾郎自身びっくりだったが、それは王女の機嫌を直すには効果的だった。
「まあよい。多少の無礼は許すぞ。そなた、名はゴロといったな。私はローズ王女だ」
「ローズ姫。お会いできただけでも光栄だというのに、私の名前を呼んで頂けて天にも昇る気分です」
「苦しゅうない、顔を上げなさい。そなたには私の前では普通に接する権限を与えようではないか。それだけの権限を受ける価値をそなたは持っておる」
「滅相もございません。しかし、誠に有難きお言葉、ありがとうございます」
 吾郎は言われるままに体を起こし、ローズを見つめる。
 優しく笑えば、ローズは素直にそれに答えてくれた。
 王女という身分なために、特別な教育をされこのように堅苦しく喋ってはいるが、表情はあどけない少女の面影を残す乙女にすぎなかった。
 これこそ高嶺の花。
 こういう女性を自分の物にしてこそ、価値があるのかもしれない。
 しかし、さすがに王女という身分はこの異世界でも自分には大それたものだった。
 例え自分の思い通りの世界になったとしても、国王の娘に手を出すのは憚られた。
 そんな思いを巡らしていたとき、ローズが声をかける。
「どうした、ゴロ。なんだか考え事をしているようだが」
「あっ、その、いえ、何も」
 王女の前では気をつけなくてはならないと吾郎は距離を保とうとしたときだった。
 殺気立った緊張感が肌を通じて感じられた瞬間、吾郎は咄嗟に剣を抜いて王女の盾となり邪悪な雰囲気がする方向に体を向けていた。
 そして剣を振りかざすと、矢が折れて地面に落ちた。
「王女様、曲者が紛れ込んでいるようです」
 吾郎は大声を出し、危険を知らせ、周りの兵を呼び寄せた。
 王女の命が狙われている事を伝え、他の兵に王女を安全な場所へ運ぶように命令した。
「ゴロ!」
 王女が不安な面持ちで吾郎を呼ぶ。
「ローズ王女様、大丈夫でございます。必ず曲者を捕まえ、命に代えてもお守りいたします」
 全身全霊の気持ちを目元に込め、キリッと力強く王女に訴えるその表情は吾郎のかっこいい魅力がたっぷりと出ていた。
 それは王女をドキッとさせた。
 吾郎を信頼していると王女は伝えたいために吾郎に微笑んだ。
「頼りにしている。後は頼んだ」
 そして数人の兵に守られて城の奥へと入って行った。
 敵襲を受け、突然の緊迫したムードの中、王女を守らなければと吾郎は神経を尖らせた。
 そういう姿の自分に惚れ惚れすると客観的にもみることができ、益々やる気につながった。
 不思議なほどに周りの空気が敏感に肌に触れては五感が鋭くなり、どこに違和感があるか体全体から感じられ、邪悪なものを嗅ぎ取ると吾郎はそこをめがけて走り出した。
 森へ続く道を駆け巡れば、怪しい人影が逃げて行くのが見えた。
「いた。待て!」
 現実の世界では運動音痴の吾郎であったが、ここでは風を斬るように早く走れる。
 体力もなくすぐに息切れしやすかったのに、やはりここでは驚くほど体が疲れない。
 そうして敵に追いついたとき、吾郎は高々にジャンプして敵に飛び掛った。
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