第二話


「曲者、覚悟」
 剣を激しく振り交わす激しいバトルが始まる。
 敵は鎧を頭から被り、どんな人間なのかわからなかった。
 重い鎧を着けているにも係わらず、敵の動きも機敏で吾郎の攻撃をかろうじてかわしていた。
「中々やるじゃないか」
 激しい動きの中、鎧の重さはバランスを取るのが難しいことに気がつく。
 吾郎は左右素早く剣をつき、相手が剣に気を取られているときに隙をついて足をひっかけて敵を転ばせた。
 上から剣を喉元に突きつける。
 万事休すといわんばかりに、敵は動きを封じ込められ仰向けに地面に倒れながら動けなくなっていた。
 手に持っていた剣を放り投げ、完全に諦めたと力が抜けていく。
「私の負けだ。一思いにやってくれ」
 その声は以外にか細い高い声だった。
 吾郎は疑問に思い、被っていた兜をそいつから取り除いた。
 そこには美しい女性騎士が現れ、吾郎は唖然とした。
「女!」
「なんだ、女だからといって舐めてもらっては困る。これでも歴とした騎士だ。情けなどいらぬ、さあ、早くやれ」
 だが彼女は美しすぎた。
 しかも、自分の好きなフィギュアの姿そのものだった。
 その女性を刺し殺せるなどできやしない。
「名前はなんという?」
「名前など聞いて何になるというのだ」
「ただの好奇心だ」
 暫く沈黙が流れたが、女性は根負けして名乗った。
「アゼリアだ」
「アゼリアか、いい名前だ」
「それがどうした。さあ、さっさとやれ」
 吾郎は大の字になって寝ているアゼリアの腕を取って引っ張りあげて起こした。
 それだけでもアゼリアは驚いていたが、吾郎はさらに強くアゼリアを抱きしめてしまい、アゼリアは時が止まったように動けなかった。
 ただ心臓の鼓動がドクドクと鎧の中で跳ね返って響いているように感じていた。
「な、何をする」
 突然我に返り、慌て出すも体に力が入らず、顔だけが熱くなっていく。
「すまない。好きな人にあまりにも似ていたから、つい」
 吾郎はアゼリアから体を離し、そして後ろに静かに下がった。
 吾郎の恋焦がれている瞳の中にアゼリアの姿が映りこむ。
 アゼリアはこの時ばかりは女としての恥じらいが出てきてしまい、吾郎の瞳に吸い込まれるかのように見つめていた。
「教えて欲しい。なぜローズ王女を狙ったんだ。目的はなんだ」
 吾郎の質問でアゼリアは言葉に一瞬詰まったが、息をゆっくりと吸ったのち語り始めた。
「あの国の国王は贅沢しすぎるのさ。金と権力をもったものには最高の暮らしがあるが、それ以外のものには労働で手にした殆どを詐取されて住み難く苦しい日々なんだよ。私達は弱きものを救いたいんだ。そのためにはあの国王たちが邪魔だ」
「だが、もっと穏便に解決する方法はないのか。せめて話し合いをもうけるとか」
「そんな悠長な事を言ってられるか。そんな事をすれば、こちら側が先にやられてしまう。ここは先手必勝だ」
「しかし、もしそちら側が負けてしまったらどうするつもりだ」
「我々は絶対負けはせぬ。どうだ貴様もこちら側に来ないか。見たところ雇われ兵だろ。こちら側にくればもっといい条件で雇ってやる」
「それはできぬ。一度交わした約束は筋を持って突き通す。それに信頼してくれている国王や友を裏切ることは嫌だ」
「勿体ない。もっと早くお前と出会っていたかった。カッコイイ兵士さん」
「俺は吾郎と言う名前だ」
「ゴロー?」
「もういい。今日のところは見逃してやる」
「おやおや、私を逃がして下さるおつもりですか。なんという甘ちゃんだ」
「俺には君を殺せないんだ。だが、逃がしてやる代わりに一つ願いを聞いてくれないか」
「なんだ、取引か」
「俺が話し合いの場を設けようではないか。双方が戦わずして、無駄な血を流さぬようにお互いの妥協案をみつけようではないか」
「だからそんなことができないと……」
「いや、出来る! 必ず出来る。俺が命に代えてでもその役目を引き受けてやる」
 真剣な眼差しを向けられて、アゼリアはぐっと体に力が入った。
 そこには信じてみたい、いや、この男なら信頼できるという確かなものを感じていた。
「本当に話し合いに応じるというのだな。その言葉に嘘はないか」
「ああ、必ずやり遂げてみせる。俺にはそれが出来ると信じている」
 アゼリアは吾郎の意気込みに飲み込まれた。
 そして話し合いをしたい具体的な事項をあげ、吾郎はそれをしっかりと聞くと、二人は明確な日にちを決めた。
「それをそっくりそのまま国王に伝える」
「もしこれが嘘で裏切ったときは、容赦はしない」
「わかった」
 吾郎は手を出し握手を求めた。
 アゼリアはそれを躊躇うことなくぎゅっと力を込めて握り締める。
 そして二人はお互いを尊重しあいながらその場を去った。
 戦争を回避できるかもしれない対策に、吾郎は必ずまとめあげると自然と体に闘志を燃やして拳を固く握っていた。
 そして何よりアゼリアのために力になってやりたいという気持ちが強かった。
 フィギュアにそっくりなキャラクターが自分の前に現れたとき、これこそ吾郎にとって重要な女性だと感じていた。
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