第三話

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 どうも、再びヨッシーです。
 真紀さんの淡い恋のお話はいかがでしたか。
 えっ、まだなぜ真紀さんが号泣したかの続きが書かれてないですって?
 あっ、はいはい。
 ここからは私、ヨッシーがお話を進めさせていただきます。
 真紀さんはご家族の都合で海外赴任されることになり、それが決まったときとてもショックが大きかったんですね。
 あの時、雨の中傘も持たずに歩いていらっしゃるから、なんか心配しました。
 そこには、好きな人と会えなくなる辛さと、このまま話もせずに引っ越したら確実に忘れられる悲しさが入り混じって、残りの時間陽一さんと親密に過ごせたらなんて望んでいらっしゃいました。
 その時、真紀さんは席替えで隣の席になる妄想をされていらっしゃって、これは助けてあげたいなんて思ったんです。
 真紀さんにとったら、もうそれだけで満足で、その後のことは何も望まれていらっしゃいませんでした。
 それでは、なんかもったいないなって思ったので、私が手助けしたんですけど、実は『チョコレート工場の秘密』の本が出てきたときからはあれは何を隠そう陽一さんの妄想だったんです。
 何気に陽一さんの情報を集めていたら、なんと陽一さんは真紀さんに関心があったんですよ。
 陽一さんももっと仲良くなりたいなと淡い恋心を持っていらして、それで私が接触したんです。
 もちろん、真紀さんも陽一さんが好きで、私が手助けしてるなんていってません。
 そういう事はご自身同士で見つけないと本当の恋にならないでしょ。
 この場合、両思いだったので、同時期に二人の妄想を組み合わせてお仕事してみましたが、あくまでも個々に別のものとして扱いました。
 だけど一つだけ、どうしてもお伝えしなければと思って陽一さんにお話したんです。
 それはこの夏、真紀さんが海外に引っ越されるということでした。
 陽一さんは非常に驚かれてたんですけど、それはすぐに受け止められました。
 この先はどうしようもないと、自分の気持ちもセーブされたんですけど、好きな人が去っていくなんてとても辛いと思いますし、まだまだ若いというよりも子供な部分の方が大きかったですから、それ以上何もできないとご自身でも分かってらしたんだと思います。
 好きだけど、敢えてそのことは伝えずにしっかりと楽しい思いをして送り出してやりたいと望まれました。
 お互い両思いながらも、それを伝える事ができないこのもどかしさ。
 それを知れば、彼らはもっと苦しくなったと思うので、私も我慢しました。
 私が二人のためにできることは、いい想い出になるような事を作ってあげること。
 そこで、陽一さんの妄想も入れて、あのような運びとなりました。
 陽一さんは真紀さんが遠くに行ってしまう事を知りながら、時々苦しんでおられましたけど、それは真紀さんも同じように感じてらっしゃいました。
 お互い苦しい思いを抱きながら、まだまだ恋に不器用でどうしていいのかわからない様子であの日を過ごされました。
 最後にお互い作ったチョコレートを交換しましたが、真紀さんはシンプルに小さなハート型のチョコレートを一杯作ってました。
 その気持ちは陽一さんにきっと伝わったと信じています。
 そして真紀さんが陽一さんから受け取ったチョコですが、そこには「ホグワーツでがんばれ!」というメッセージが入った大きなハート型のチョコレートがはいってました。
 そのメッセージを見て、真紀さんは感極まって大泣きされてしまいました。
 このホグワーツなんですけど、ハーリーポッターをご存知の方なら分かってもらえると思いますが、ハリーが通う学校の名前です。
 真紀さんが引っ越されるところがイギリスだと私がお教えしたので、陽一さんはハリーポッターの舞台となったイギリスと引っ掛けてそのようなメッセージをチョコに込められました。
 陽一さんはこのメッセージに辿り着くまで随分悩んでいらっしゃいましたよ。
 自分の気持ちを正直に書いて告白しようかまで思ってらしたんですけど、自分のことよりも一番伝えたかったのは真紀さんにどこへ行っても頑張って欲しいということでした。
 シンプルながらも伝えたい気持ちがあのメッセージに深く刻み込まれていました。
 それはダイレクトに真紀さんに伝わり、陽一さんは真紀さんの引越しとその場所を知っていた事をこの時真紀さんが気づいたという訳です。
 そして、陽一さんの言葉を思い出したんです。

『うーん、ある意味、これも現実に起こったことだったじゃないか。周りのものに見慣れてないだけでさ。場所や状況が違っても自分がいる場所は全て現実なんだよ。そこでどう対応するかでモノの見方が変わってくるだけじゃないかな』

 この言葉は遠まわしにどこに行っても頑張れと言っている言葉だと真紀さんは理解したんです。
 そしてその後に交わした会話も思い出されました。

『なあ、岸島、俺さ今日のことは一生忘れないと思う』
『私も。こんないい想い出、絶対忘れたくない』
『なんか、この先も頑張ろうっていう気持ちにさせてくれるような出来事だよな』
『うん、そうだね』

 この時の言葉の重みがより一層心に響いたみたいです。
 お互い好きだと言う気持ちは伝えられなかったけど、一緒に過ごした想い出は二人の中で永遠に残り、そしてそれを糧に頑張ろうという気持ちにさせくれるという強い絆を示していたというわけです。
 小さな恋でも、その思いはとても深く心に刻まれた出来事でした。
 私はこの二人のお陰で元気をもらいましたよ。
 自分も役に立ったことでまた自信に繋がります。
 この後、真紀さんはクラスでイギリスに引っ越すことを話すんですが、背筋を伸ばしてこの先も頑張ると陽一さんにもわかるように思いきり笑顔を見せられました。
 あのライバル扱いされたあずささんですが、「これでライバルが減るわ」なんて口ではそんな言葉を言いながらも、最後は笑って「元気でね」と挨拶されてました。
 意地悪っぽく見えて結局はいい方でした。
 
 真紀さんと陽一さんの物語はここで終わりなんですけど、まだまだこの二人はお若い。
 そして真紀さんが日本に戻ってこられたとき、縁があれば陽一さんとも会えるはずです。
 その時は二人とも成長されて、それぞれ色々と感じて思われることでしょう。
 もしまた私が必要なら喜んでお手伝いしてもいいななんて思ったりしてます。
 今回は厳格にはハッピーエンドではなかったかもしれませんが、それはあの二人がこのような結果を望まれたことだったので、何も結ばれることばかりがハッピーエンドじゃないと思います。
 これから希望へと繋がる未来が二人にはあるということで、だから私にはこれもハッピーエンドへの始まりとした布石だと思ってます。
 これで無事に事を終わらせてなんか私もほっとしました。
 さて次はどんな妄想恋愛に出会えるでしょうか。
 またこれから探してきます。
 その前にチョコレート食べてちょっと一服してきまーす。
 
<第三話 The End>
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