第五話


 タイムトリップが関わる妄想の依頼に、ヨッシーはすっかり疲れてしまい、才一のことにまで中々手が回らなかった。
 才一は物分りがよく、何も説明しなくてもヨッシーの言葉をすぐに信じてひたすら崇める様子を見せていた。
 それがヨッシーをいい気にさせてしまう。
 そのせいで、ヨッシーは才一の依頼を後回しにし、自分でも手を抜いてしまったと思うところがあり、少し罪悪感にさいなまれていた。
 それでも気を取り直してできるだけの事をしようと、ヨッシーは神社の裏で才一を待っていた。
 才一が現れたとき、ヨッシーはすぐさま謝罪をする。
「ああ、才一君。待ってましたよ。なんかほんとごめんなさいね。言い訳をさせていただくなら、ちょっと忙しくて」
 ヨッシーが居たことに才一は驚いてしまい、あたふたとするも、身についた習慣で頭を下げた。
「ヨッシーさん。どうも、こんにちは」
 どこまでも才一は礼儀正しく、ヨッシーを敬う。
「才一君、怒ってないですか」
「えっ、怒ってる? いえ、そんな事はないですが……」
 一瞬、才一は少しがっかりとした表情を見せた。
 そこには文句を言いたいけど、言っても仕方がない諦めが見えている。
 それを言ってしまえば自分が厚かましくなってしまうのが分かっている様子だった。
「やっぱり、アレですよね。私、中途半端なことして、なかなか才一さんの思うようにできなかったですもんね」
「そ、そんな事ないです。色々とヨッシーさんにもご都合というものがありますから、ちゃんとわかってます」
「そんな、そこまで言っていただくと、私恐縮です」
 ヨッシーは身を竦ませていた。でも気を取り直し今からが勝負だと思ってやる気を見せようときりりとする表情をする。
「ところで、みーちゃんはどこでしょうか」
 ヨッシーが子猫の事を訊いた。
「僕も探しに来たんですけど。みーちゃん、どこにいるの?」
 才一は辺りを見回して、白い子猫を探した。名前を呼んだり、チチチと音を作って自分がここに居る事を知らせようとしていた。
 だけど一向に反応がなく、白い子猫は才一の前に現れることはなかった。
「どうしたんだろう、みーちゃん。疲れて隠れてるのかな」
「あら、みーちゃん、居なくなっちゃったんですか。それはどうしましょう」
 ヨッシーもおろおろと心配しながら、一緒に辺りを探し出した。
 いくら呼んでも子猫は現れなかった。
 才一は顔が真っ青になり、最悪の事を考えてしまう。
「もしかして、みーちゃん、死んじゃったとかじゃないですよね」
 泣きそうな目をヨッシーに向け、才一はなんとかしてほしいと目で訴える。
「ま、まさか、そんなことは。でも、待って下さい。私ちょっと探してみます。少しお時間もらえますか」
 妄想を現実に叶えるくらいのヨッシーならば、行方不明になった子猫を探すのも難しくないことだろう。
 才一はそう思うと、ヨッシーに任せることにした。
「ヨッシーさん、本当に僕のためにありがとうございます」
「そんな、ご丁寧に恐れ入ります。でも私、才一さんの満足行く事をまだしてないですから」
「いえ、そんな事ないです。みーちゃんがとても大事な猫だと気がついただけでも、僕は感謝してます。やっぱりヨッシーさんと出会わなかったら、こんなことにもなりませんでしたから」
 ヨッシーに頭を下げる才一。
 ヨッシーは益々なんとかしないとと、鼻息を荒くした。
 才一に家で待っているように告げ、ヨッシーは全力で子猫を探した。
 そこで、ヨッシーは真実を知って酷くショックを受けてしまった。
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