第五話
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えーっと、皆さん、どうも、ヨッシーです。
今この話を報告するのがとても辛いです。
私、やっぱり人の妄想を現実にするなんて無理だったのかもしれません。
いつも微妙に上手くいってるのか、いってないのか、わからないようなそんな感じがします。
今回は、私なんていてもいなくても意味がないというくらい、すごくショックを受けました。
はっきり言います。
才一君、私の力など関係なく、自分でかわいい彼女を見つけてしまいました。
一体私っていう存在はなんだったのでしょう。
この話をするのは私、嫌ですわ。
でも何が起こったのか、ご報告しないことには、中途半端ですもんね。
とにかく説明させていただきます。
ぶっちゃけあの後、子猫は見つかりまりした。動物病院にいました。飼い主も決まっています。
子猫に関しては何も心配ないことだけ先にお伝えしておきます。
それで、才一君と一緒にその動物病院へ行って、子猫を見に行きました。
「ああ、みーちゃん」
才一君は涙を流し、無事に子猫と感動の再会をしたのです。
誰がこの猫を連れて来て、貰い手は誰なのか、私がそれを訊こうとしたんです。
でも才一君はそれを知りたくないと拒み、そして動物病院をさっさと後にしました。
私は不思議に思いその理由を訊いたのです。
「才一君、なぜ詳しい事を訊かなかったのですか?」
「知らない方がいいんです。みーちゃんは心優しい誰かに拾われて、病院に連れてこられて、そして引き取られる。僕ができなかった事を、いえ、すべきだった
事をその人がしてくれた。みーちゃんはもうその人の猫なんです。僕がその人が誰かと訊いたところで、僕にはどうしようもないんです」
才一君は目に涙を溜めてました。
才一君にとったら、自分が引き取りたくてもできなくて、人にとられてしまう複雑な感情があったのでしょう。
真実を知ったら、もっと辛くなる。それで知らない事を選んでしまった。
だから私もそっとすることにしました。
「才一君、妄想を現実に変えるとか言っておきながら、ご希望に添えなくて申し訳ないです」
私は謝りましたよ。
ちょうど同じ頃に面白い妄想を見てダブルブッキングしてしまい、才一君の妄想がなおざりになってしまって、私は反省しました。
でも才一君、私を責めるどころかお礼を言うんです。
「いえ、ヨッシーさんはちゃんと願いを叶えてくれました。僕はそれだけで十分です」
「えっ、そ、そんな」
私は驚きましたよ。
だって私、何一つ才一君のために自分の力を使ってないんですから。
でも才一君は頑なに、みーちゃんをかわいい女の子にしてくれたと言い張るんです。
少しでも一緒に居られたからそれで満足ですと言い切って、才一君は頭を下げて帰っていかれました。
残された私は、一体何の事がわからなくて、もう一度動物病院に戻ったんです。
そこで誰が子猫をここに連れてきたのかわかりました。
それからその人を探して詳しい話も聞けました。
猫を拾われたのは美亜さんという方で、ハーフの方らしく、日本語もカタコトくらいにしか話せないみたいでした。
でもお父さんが日本の方なので、お父さんからも詳しい話を聞きました。
美亜さんたちは海外生活をしていて、日本に戻ってきたばかりだそうです。
才一君が子猫の面倒を見てたのは知っていたけども、その日、嵐になるので、美亜さんは心配して猫を拾って、引越しの準備で忙しいために、お父さんと一緒に動物病院に預けたんですって。
お父さんも猫が好きなので、美亜さんのためにも飼うつもりになっていたらしいです。
そこで世話をしていた才一君に飼っていいかと許可を貰おうとして、美亜さんは嵐が去った翌日に会いにいったそうです。
美亜さんは海外暮らしが長いので、すぐに口から日本語が出てこないだけで、聞き取りは十分問題ないそうです。
だからたどたどしい日本語で必死に伝え、自分が猫を飼う事を才一君から許可を貰ったといってました。
その時、才一君は美亜さんが、その白い子猫だと思い、私が願いを叶えたと勝手に思いこんでいたというわけです。
美亜さんも才一君が物分りよかったので、自分の意図することが伝わったと思っていらっしゃいました。
どちらもお互い言い分が通じたと思っていたわけです。
だけど、ちょっと待って下さい。私、何にもしてません。
ふたりとも勝手に自分で解釈して、上手い具合に話が進んでいただけです。
私、なんか悔しかったですね。
結局妄想なんか現実にならなくても上手く事が運んでいるんですから。
私が関わらないほうが事が上手くいってるような気すらします。
しかもですね、さらに私はショックを受けるんです。
なんと美亜さんは才一君の高校へ転入して新学期が始まると再会するんですよ。
ふたりはすでに出会ってるので、仲良くなるには時間はかかりませんでした。
才一君、勘違いで体験したことがきっかけとなって、一回り大きくなられたみたいでしっかりとされました。
顔つきも少年から青年に変わるような大人びた様子になって、美亜さんとは上手くいってるみたいです。
思わず私の顔つきが厳しくなります。
素直に喜べるわけがないじゃないですか。
私何にもしてないのに、才一君と美亜さん、勝手に幸せを手にしてるんですよ。
私、いままで何をやってきたんでしょう。
ものすごく自信なくしました。
人様のためを思って、私にしかできないことだと思って貢献してきたつもりが、ただ掻き回しているだけに思えてならないです。
だから、私、妄想を現実にする事をやめます。
自信喪失すぎて、やってられません。
また、何か気持ちの整理がついたら気が変わることもあるかもしれませんけど、当分そんな気になりません。
今はちょっと離れて、一人で旅に出ます。
傷心一人旅〜
と、言うわけで、今までありがとうございました。なんか唐突ですけど、そういうわけでこれで終わりにさせて頂きます。
もしも、またいつかお会いできる事があれば、その時はどうぞよろしくお願いします。
ああ、まあ、いっか。
とりあえずは私も何か得るものがあったことですし、無駄であってもいつか何かの役に立つこともあるでしょう。
人生は失敗から学んで当たり前。
その次のために、活かせればそれはまたそれで役に立つとでも申しましょうか。
今は少し休んで、また後に気まぐれで何か違う事をするかもしれません。
そうですね、例えば、死ぬ間際の人の最後の願いを叶えたりなんて……
他にもまた思いついたら色々とやってみてもいいのかも、なんて結局私も懲りない性分なのかもしれません。
とにかく今までお世話になりました。
とりあえず、笑ってさようならといたします。
それではまた会うときまで……
See you!
『妄想恋愛叶えます。これにて完』