第三章


 暫く佳奈さんが本を読んでいる場面が続くと動きがなくなり、その間にみんなは意見を言い合った。
「何だか、サスペンスじみてきたね」とワットが言えば、彼の腕に抱かれていたハウが「キュー」と鳴いた。ワットはそれに答えていた。
「どんな内容の本なんだろうって? えっ、ハウちゃんはそっちが気になるの?」
 ワットは私の様子を窺いながら苦笑いしていた。
「なんだか、アタチが思ってた感じと違うな」
 ウェンが遠慮がちにボソッと言った。
「なぜ、読み手の思うように展開しないといけないのかしら。私はこれでいいと思いますわ、ねぇ」
 ワイはフーズに相槌を強要した。
「誰の物語かと考えれば、佳奈の物語だから何が起こってもいいんじゃないでしょうか」
 フーズの意見は無難だった。
 スクリーンに映し出されている佳奈さんは今本を読んでいるところだ。静かな場面の間、みんな口々にこの物語の展開を話し合っている。
 でも私はひとりコンピューターに向かって、カチャカチャとキーボードを狂ったように操作していた。何かがおかしい。
「ん? ミシロ、慌ててるけどどうかしたのか?」
 ウェアがぴょんと机の上に乗ってコンピューターを覗き込んだ。
「ちょっと変になってるの。文庫本ははっきりとした情報をインプットしてなかったんだけど、なぜそこにBLが紛れ込んでるのか不思議なの。それに、拓海が妖しい人物かもしれないこの展開は私にも想定外だわ」
 何かがずれてきている。
 もしかしたらどこかで間違ったのかもしれない。ちょっとしたミスというのはどうしても起こってしまう。
 だけど、その間違った場所がわからないし、修正しようにも操作ができなくなっている。
 一体どういうことなのか――。答えはひとつしかない。またアイツに書き換えされている可能性だ。
 みんなは私を心配するように見ていた。うすうす何かを感じている様子だ。
 暫く私が何とかしようと無言で作業をしていたが、やはりどう操作しても修正できなかった。
「だめだわ。また書き換えられた。これは私の作ったプロットから逸脱しているわ」
 パニックになった私の言葉に、みんな口々に驚きの声を発していた。
 一体この後、この話がどうなるのか私にも先が読めない。ここからミステリーになってきているような気がする。
 何をやっても私にはどうすることもできなかった。アンチの力が大きすぎる。悔しいけど話が展開されるまで、ここは好き勝手にされるままでいるしかできなかった。
「何よ、これ……」
 つい嘆いてしまうと、ウェンが私の側に飛んできて身を寄せてくる。
 彼女なりに慰めてくれていた。
 私はウェンを抱きしめ、落ち着こうとした。
 その頃佳奈さんは、顔を歪めながら本を読んで戸惑っていた。

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