ふたりは謎ときめいて始まりました。

第二章


「何の話してるの?」
 楓は急に怖くなって久太郎の後ろに隠れた。
「僕の消しゴムが消えちゃったから、このお兄ちゃんに出してもらおうと思って」
「出してもらう?」
「うん、このお兄ちゃんね、魔法が使えるんだよ」
「嘘!」
 楓は驚きすぎて益々ロクを避けていた。
「だから、それは……」
 久太郎がどこまで魔法の事を信じているのか、ロクは計り知れなかった。でも久太郎にしがみつくように怖がっている楓を見ると否定するのをやめた。
「ねぇ、葉山さん、ちょっと訊いていいかな」
 ミミは優しく問いかける。
 楓は急に警戒し始めた。
「落し物箱に消しゴムが入っているのを見たんだよね。それはいつだった?」
 ミミの質問に答える前に楓は久太郎に不安な目を向けた。久太郎は気を遣って説明する。
「ほら、四時間目が終わって、みんなが給食の準備にとりかかっているとき、『落し物箱に消しゴム入ってる』って言ったでしょ」
「うん……」
「あれはいつ見たの?」
「あの箱の前を通ったときだった」
 楓は急に消極的になっていた。
「それは四時間目が終わってからってことかな?」
 ミミは確認すると、楓はコクリと首を縦に振った。
「その時、他に誰かいなかった?」
「他にも人がその辺りにいたと思う。給食前だったから、騒がしかった」
「その人達も消しゴムが落し物入れに入っているのを見たかな?」
「わからない」
 楓は視線をそらした。
「その消しゴムを見たとき、それが久太郎君のものだって知ってた?」
 楓は首を強く横に振る。
「消しゴムが入っているって、誰に向かって言ったの?」
「誰ってことはないけど、つい言ってた」
「その消しゴムは一体誰が箱に入れたんだろうね。葉山さんはもしかして知っているんじゃない?」
「えっ、し、知らない」
 楓は首を横に何度も振っていた。
「もういいよ、おねえちゃん。葉山さんには関係ないんだ。失くした僕が悪いんだ。これから買いに行くよ」
 久太郎は楓に迷惑かけたくなかった。
「新しい消しゴム買うの?」
 楓が心配そうに聞き返していた。
「うん、これからお祖母ちゃんに会うんだけど、失くしたっていったら買ってくれると思う」
「ちょっと待て、久太郎。まだ買わなくていいぞ」
 ロクは胸を張っている。
 久太郎は「えっ」とびっくりしてロクを見つめた。その隣で楓も恐る恐る見ていた。
「明日、学校に行ったら、落し物箱見てみろ。きっと戻っているはずだ。今、魔法を使った」
「えっ、魔法を使った? ほんと?」
「『久太郎のところに帰りたい』って消しゴムの声が聞こえた。だから、帰れる魔法をかけといたぞぉ、えいって」
 ロクは大げさに腕を振り、何かになりきった様子だ。
 ミミは突然の魔法使いのなりきりにきょとんとしていた。
「それで、本当に戻ってくるの? もし、戻ってこなかったら?」
 久太郎も半信半疑だ。
「俺を信じろ。魔法使いだぞ。信じたらこの魔法はもっと強くなるんだ。久太郎も念じてみろ」
「わかった、お兄ちゃんを信じる。本当に戻ってくるんだね。うわぁ、明日が楽しみだな」
 久太郎のその喜びはとても無邪気で、純粋に信じきっていた。
「魔法がかかってますように。消しゴムが戻ってきますように」
 久太郎は手を合わせて祈っていた。
「じゃあ、みんなで久太郎のために祈りを捧げよう」
 ロクもまた手を合わせると、ミミも真似をする。楓はその場の雰囲気に圧倒されていたが、久太郎がにこっと微笑んだことで、恐々と手を合わせ半信半疑に祈りを捧げていた。
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