ふたりは謎ときめいて始まりました。

第五章


 ロクとミミが瀬戸たちと別れて家路についたのは午後四時を回ったところだった。
「さっきから黙り込んでいるけど、まだ消しゴムの謎について考えているの?」
 ミミが訊いた。
「色々と気になる事があるんだけど、ちょっと今から出かけてくる」
「ええ、どこに行くの? 調査なら私も一緒に行くのに」
「ミミは先に帰っていてくれ。よかったら夕飯作って待っていてくれないか?」
「えっ、夕飯? いいよ。何が食べたい?」
「ミミに任せる」
「わかった」
 ミミが承諾すると、ロクは来た道を戻っていった。
 料理を作ってくれといわれると、ミミは断然やる気に燃える。ロクが喜ぶような料理を作ってみたい。ついでにデザートも作れば完璧だ。何を作ればいいかミミは考えながら歩いていた。
 大通りからひとつ中に入った街並みは、個人の店とマンションの建物と住宅が密集している。看板や幟、至る所の自動販売機が飾りとなってごちゃごちゃして いた。そんなに広くない道を自動車が不定期に通っていく。自転車もすれ違い、それらが重なると一気に道が混み合う。その重なる瞬間を避けようとミミが道の 端に寄って前後の様子を見ているとふと違和感を覚えた。
 ミミの後ろで男性が不自然に身を隠したように見えたからだった。その時は偶然かもしれないと自信がなかったが、自動販売機の前に立ち、商品を選んでいるふりをして後方をもう一度ちらりと見れば、先ほどの男性が不自然にミミの視界から消えるように建物の陰に近づいた。
 ――付けられている。
 そう思ったとき、黒い車がすっと走ってきてミミの横で止まった。
 見た事がある車だと思ったその時、後部座席のドアが開いた。出てくるのかと思えば、乗っていた人が奥へと詰める。
 怖くなって逃げようと思ったときは、先ほど後ろをつけていた男がすでにミミの側にいて、ぐっと腕を掴んだかと思うと、車の中へと無理やり押し込んだ。
 突然のことに驚きすぎてミミは声が出せずに、気がついたら両隣の男たちに挟まれてシートに座っていた。
 車はすぐに発車し、ミミはつれていかれてしまった。
「ああー!」
 やっと事態の深刻さに気がついたミミは悲鳴を上げるも、すぐに男に口を塞がれてしまった。
「むむむっむ、ぐぐむぐぐぐ(ちょっと何するのよ)」
「白石さん、お静かに、悪いようにはしません。ちょっと一緒に来て下さい」
 運転手の隣にいた濃い顔の男性が声を掛けた。
 ――白石?
 ミミの耳には確かにそう聞こえた。
「むむむっむ、むむむむむぐ!(ちょっと、白石じゃないわよ!)」
「おい、うるさいから、薬でも嗅がしておけ」
 後部座席のもうひとりの男が、ごそごそと何かをポケットから出しそれを布にかけてミミの口を塞いだ。
 ミミは恐怖に慄いて暴れたが息を吸い込めば、なにやらいい匂い。
「ん?」
 一瞬肩の力が抜けた。不思議に思って口を塞いでいる男を見れば目で何かを訴えるような仕草をした。この男は自分の味方だ。直感で感じる。
 何かの意図があると悟ったミミは、目を閉じて頭をガクッとさせた。眠ったふりだ。
 ――でもこれ、バニラエッセンスだよね。ああ、いい香り。
 ミミは暫く様子を見ることにした。
「おい、なんか甘ったるい匂いがしないか?」
「今、ケーキ屋かパン屋の側通りました」
「そうか。なんか腹減ってくるな」
「お前ら、後ろでごちゃごちゃ言うんじゃない。遊びじゃないんだぞ、分かってんのか」
「へい、すいやせん、兄貴」
 ミミは何が起こっているのか、それを探ろうと男たちの会話を注意深く聞いていた。
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