第二章


 買い物が終わると、僕たちはどこか座れる場所がないか街の中を彷徨う。カフェショップに入ればよかったかもしれないが、どこも人でいっぱいだ。それに学生だから、無駄にお金を使うのも憚られた。
 量販店チェーンストアに入った時、憩いの場所っぽくベンチが置いてあったのでそこに腰掛ける。買ったばかりのパジャマが入った紙袋を映見は膝の上で大切に抱えていた。
「疲れたね」
 そんな言葉を発しながらも、映見は笑顔を絶やさない。
「それで、明日はどこへいくつもりだ?」
 少しぶっきら棒に言った。
「私と一緒に居るのに飽きた?」
「飽きるも何も、早く条件に合った写真を撮りたいだけだ」
「やっぱり私に飽きたんだ」
「僕は最初から放ってほしいといってるじゃないか」
 一緒にいることが映見のためにならないだけだ。僕は映見に呪いが発動しないか気がかりなだけだ。
「まあ、いいか。明日も私と合うつもりでいてくれてるんだから、それなら今度は透が予定を立てて。どこに行けばいい写真を撮れると思う?」
 いい写真を撮るって、インスタ映えみたいな言い方だ。
「じゃあ、近場にしよう。いつもの場所で」
「いつもの場所って、あの駅前?」
「うん、朝十時でどうだい」
「十時? 別にいいけど」
「さっさと写真撮って終わるよ」
「それって、最初から諦めるってこと?」
 こんなごみごみしたところを歩き回るのも疲れたし、折角の休みを映見に付き合うままで終わるのもなんだかしんどくなってきた。休みぐらいゆっくりしたいというのもあった。
「わかんないぞ、もしかしたら僕にはいい案があるかもしれない」
 ただのはったりだった。
「わかった。明日朝十時、いつもの駅前だね」
 映見は少し不服そうに繰り返す。何か物足りなさそうだ。
 そして僕たちは一緒の電車に乗って、途中で僕が先に電車を降りた。その間際に映見は言った。
「パジャマを選んでくれてありがとう」
 僕が振り返れば、紙袋を胸に抱きかかえていた。なんて答えていいか迷っているうちに電車の扉が閉まる。
 僕たちは言葉なくただ見つめ合う。そうしているうちに映見は電車と共に消えてった。
 映見は僕の選んだパジャマを気に入っている。そう確信したとき、僕は選んじゃいけなかったのじゃないだろうかとその時になって後悔しだした。これで映見 との距離がまた少し近づいたかのように思えたからだった。やはり早く隠し撮りを成功させないといけない。明日どうしようかと作戦を考えていた時だった。珍 しく神野からメールが入った。

 ――明日、駅前でバイトがあるんだけど、手伝ってくれないか?

 バイトだって? しかも駅前?
 僕はすぐさま折り返し神野に電話する。
「おっ、透か。メール見てくれたか」
「バイトってなんだよ。僕も明日は忙しいんだけど」
「ゴールデンウィークだろ。明日の朝、九時ごろから駅前の広場で街を上げてのお祭りキャンペーンがあるみたいで、着ぐるみ被る奴を探してるんだ。予定してた奴が倒れちゃってさ」
「駅前の広場で着ぐるみ?」
 なんだかタイムリーでぱっと閃いた。
「ああ、ウサギなんだけど、どうだ、その中に入らないか?」
「で、神野は何するんだ?」
「俺は、盛上げ役とビラ配りを手伝う。別に透がビラ配りで俺が着ぐるみでもいいんだけど。とにかく周りが爺婆ばかりで若い人手が足りなくて、急遽頼めるのがお前しかいなかったんだ」
「乗った。俺が着ぐるみを着るよ」
 即答で答える。これはいけるかもしれない。
「本当にいいのか? 時給は結構安いぞ」
「お金は気にしないよ。その代わり、ちょっと協力して欲しい」
 僕は明日映見に会う事情を神野に話した。
 ウサギの着ぐるみは僕には都合がいいかもしれない。これなら思ったように写真が撮れるかも――。
「まあ、借りができたから仕方がないな。できる限りの事はするけどもうまく行くかな」
「神野はただカメラを持ってて欲しいんだ。僕が必要な時にすぐに手渡してくれさえしたらそれでいい」
「カメラ持ちをするだけでいいんだな。それなら簡単だ」
 神野はあっさりと承諾してくれた。
 これならきっとうまく行く。突然の予期せぬ展開に、急に明日が楽しみになってきた。
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