第四章


 僕が急に映見に冷たくなったのは、見知らぬ人からの警告メールのせいだ。いや、お陰だという方がいいのかもしれない。僕はメールを見てその通りだと改めて気づかされたからだ。

『時生映見に近づくな。お前は死神だ。映見の命を奪うつもりだろう。一刻も早く映見から離れろ』

 脅迫めいたその言葉に僕は震え上がるも、確かにハッとさせられる目覚めがあった。
 一体これは誰からなのだろう。知らないフリーアドレスからの送信。僕のアドレスをどうやって手に入れたのだろうか。
 僕のアドレスを知ってる人なんて知れている。まさか神野が教えた――。
 だが神野は僕をからかう事があっても、個人情報を人に渡すような奴じゃない。しかも僕が死神だと否定してくれる唯一の友達だ。こんなメールを送るような奴には協力しないはずだ。
 でも誰が送ってきたのかなんてそんな事問題じゃなかった。
 問題は、僕が死神ということだ。
 この警告は僕の目を覚まさせるには十分だった。
 カメラのフィルムはあと十二枚残っている。このままやめれば映見はもっとしつこく付きまとう。僕が避けても、ばあちゃんの家に来るかもしれない。映見と離れるには早く写真を撮って約束通り縁を切るしかない。
 僕が危機感を抱いているうちに映見からメールが入った。あんな失礼な僕の態度など全く気にしてないのがその文面から伝わってくる。僕がこんなに苦しんでいるのに理解されない腹立たしさがあるけど、僕は映見の顔を思い浮かべながら何度もそのメッセージを読んでいた。

――何があったか知らないけど、最後まできっちりと挑んで来てよね。明日は図書館なんてどう? 急にやる気を出した透のお陰で私も全力で笑って阻止するから。そして最後に笑ってるのももちろん私! 笑笑

 映見の得意げに笑う声が聞こえてきそうだった。
 僕と関わることで呪いが降りかかるかもしれないのにあまりにも無邪気だ。僕には映見が眩しすぎる。彼女のバイタリティはいつだってベストを尽くしている。それが生命の力とでも言わんばかりに。
 一生懸命に輝くその光は決して絶えさせてはいけない尊いものだ。映見を守るためにも、僕は気づかれずに写真を撮ってそこでこのゲームをいい加減終わらせなければならない。
 僕は、映見に返事をする前に警告メールを開いてもう一度読み返す。脅迫じみた言葉であっても、今は決心を固めてくれた助言に見えた。
 返信ボタンをクリックし、指先を勢いよく動かした。

 ――警告してくれてありがとう。映見は絶対に死なせはしない。

 それは自分に言い聞かせた言葉でもあった。
 僕だって死神と呼ばれることは辛い。僕の好きな人をこれ以上失うなんてもう耐えられない。できるなら代わりに僕がそうなればいいとさえ思う。僕だけを残して大切な人たちが消えていくなんて、今度そんなことがもしあったとしたら僕は……。
 映見の笑顔が不意に浮かんでくる。
 僕は激しく首を横に振り、ブルブルとそのビジョンをかき消した。
 今は何も考えないほうがいい。もしもなんて想像したら、僕はそうなることをイメージしてしまって不吉の何ものでもない。
 そんなこと起こるわけがない。僕は必死に否定した。
 僕は絶対に映見から離れる。呪いなんて映見に降りかからない。好きになった人が居なくなるなんて絶対にそんな事があってはならないんだ。
 次で決着をつけてやる。
 思いを込めて警告メールを送ってきた奴へ送信ボタンをクリックした。
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