エピローグ
3
天空の国が再び見えた時、ジュジュは帰ってきたことを実感する。お城を離れていたことが嘘のようでもあり、森の中の屋敷で暮らしたことが夢のようでもあった。
しかし、セイボルの事を熱く思い、胸を押さえると全てが現実として体が震えてくる。
大空いっぱいに広がるどこまでも続く希望を抱いて、清々しい笑顔を向けていた。
また新たな日々が始まる。気を引き締め、そして覚悟を決めてジュジュはお城を目指して降りたった。
お城ではジュジュが居ない間大変であっただろうが、目的を果たした今、ジュジュは胸を張って帰ってきた。
旅立った場所と同じ草原でモンモンシューから降りた。
「モンモンシュー、本当にありがとう。あなたがいてくれたから、私は自分の夢を叶えることができたわ。感謝してもしきれないくらいよ」
「プキュー」
モンモンシューも楽しい時を過ごしたといいたかったのだろう。その瞳は澄んで優しかった。
モンモンシューは、仲間の居る場所へ飛び立つ。自分が体験した冒険の事をすぐにでも話したいのかもしれない。
「モンモンシュー、また後でね」
「プギャー!」
元気な声が炎と共に吐き出された。モンモンシューは自分の住む場所へと戻っていった。
それを見送り、ジュジュは身を引き締めた。久しぶりに帰るお城はなんだか緊張する。
風が吹く草原を、ずんずんと力強く進み、そして段々それが早くなり、最後は力いっぱい走っていた。
お城へ続く林を抜け、そして何人かの人々が元気に走ってくる女の子の姿を不思議そうにみて働いていた手を休める。
ジュジュは会う人、会う人に「ただいま」と挨拶をし、人々は何事かとその様子を見に集まってきた。その中にエボニーがいた。
エボニーはジュジュの姿を見て驚き、前に居た人を掻き分けて、すぐさま走りよった。
「ジュジュ様!」
「ただいま! エボニー」
ジュジュはエボニーの胸に激しくぶつかるように飛び込み。エボニーはそれをしっかりと掴むように強く抱きしめた。
「今までどこにいたんですか。心配しましたよ。よくぞ、ご無事で」
「エボニーのお蔭で、とっても楽しかったわ」
「私のお蔭? 私何もしてませんが」
「嘘! 陰謀を企んだでしょ」
言い方は意地悪だが、ジュジュは満面の笑みを浮かべていた。
「陰謀?」
「私、黒魔術を操る殿方に心を奪われましたの」
「えっ? ええー! それって、それって」
ジュジュはそれ以上は教えなかった。
エボニーはどう反応していいのかわからないで、困惑している。その様子をジュジュはいたずらを仕掛けて成功したように嬉しそうに笑っていた。
「この陰謀は誰にもいいませんからね。安心してね、エボニー」
「あっ、ジュジュ様!」
ジュジュは走り去っていく。
エボニーはほっとしたような、面映いような、複雑な気持ちでジュジュの後姿を見ていた。
「セイボル、本当にジュジュ様を手にしたのね……」
エボニーはなんだかおかしくなって笑いが徐々にこみ上げる。最後はお腹を抱えて笑い転げていた。
「お母様、お父様」
荒々しくドアを開けて、ジュジュが元気に駆け寄ってくる。
「おお、ジュジュ!」
どちらも目を見開いて驚きながらも、ジュジュが帰って来たことを歓喜している。
「必ず戻ってくると信じてました」
「元気そうでなによりだ」
二人は叱ることなどなく、温かく迎える。
少し見ない間にその成長ぶりは確実にジュジュから感じ取れ、親としてそれはとても誇りに思い喜んでいた。
「勝手な行動をした事を怒らないの?」
ジュジュがモジモジとして両親の顔色を伺う。
「そうですね。心配はしましたけど、私がジュジュを怒る理由はありませんわ。ねぇ、あなた」
「そうだな。私も同じ気持ちだ。ユア マジェスティ」
ジュジュが帰ってきて喜ぶところなのに、この二人は自分達の手を取り合い、ジュジュの前でラブラブを見せ付ける。
いつまでも愛し合い、その愛を分かち合う二人の姿を見るのはジュジュは好きだった。
そこに自分の将来を重ね、セイボルの事を考える。
いつまでもこんな風に愛し合いたい。
ジュジュは自分の事のように、両親のいちゃつきをクスッと微笑んでみていた。
その後、グェンと再開し、固く抱き合って歓喜した。グェンは泣きじゃくって言葉にならず、何度もジュジュを抱きしめていた。
「私の代わりになってくれてありがとう」
「お役に立てて光栄です。よくぞご無事でお戻り下さいました」
グェンはジュジュを抱きしめながら泣いていた。
ジュジュはそれを慰めるのに一苦労していた。
さて、最後に、カーラが登場した。
カーラは全く以前と変わらず、常に冷静沈着して泰然に振舞い、ジュジュと向き合う。
「お帰りなさいませ、ジュネッタージュ王女様」
久しぶりに聞いた自分のフルネームと王女の組み合わせ。
ジュジュはカーラの前では王女として落ち着いて振舞う。小言をいわれるのを覚悟して少し緊張していた。
「ただいま戻りました」
「そうですか。それで、目的は果たせましたか?」
「えっ?」
「だから、心から好きと言える殿方にお会いなさいましたか?」
「カーラ、どうしてそれを」
「理由はどうでもいいのです。私の質問にお答え下さい。ジュネッタージュ王女」
「はい。とても素敵な殿方と恋に落ちました」
「そうですか。それはようございました。今までの成果が全て役に立ちましたね」
「カーラ」
ジュジュはカーラに抱きつくと、カーラはいつもの厳しい顔から、愛情たっぷりに微笑んでいた。
「これで私の使命も終わりました。何も思い残すことはございません。よくぞ王女として立派にお育ちになられました。今まで厳しくしてきましたけど、よくついて来て下さいました。ジュネッタージュ王女様、カーラはうれしゅうございます」
「それじゃカーラはやっぱり私がこうすることをわかってたのですね」
「はい。何せ、女王様が同じ事なさってましたからね」
「えっ、お母様が?」
「詳しくはご本人にお伺いになって下さい」
カーラは笑ってその後は何を聞いてもジュジュには教えなかった。
ジュジュが再び戻ってきて、お城は一気に活気付く。そしてジュジュの誕生日パーティの準備も慌しく行われた。
ジュジュはその日を楽しみに待ち望む。
どんな顔をしてセイボルに会えばいいのか、鏡を見ながら色々と練習していた。
「セイボル、早く来て。愛してるわ、私の愛しい人」
鏡の自分に向かって、ジュジュは笑顔を向けていた。
その頃、セイボルは書斎でジュジュのスケッチ画を手にとって見ていた。鏡に向かって髪を梳いているジュジュはまるで本人が目の前にいるようだった。
ジュジュの声が聞こえたような気がしてセイボルはそれに答える。
「ジュジュ、私も愛してる」
そしてジュジュの誕生日パーティがすぐ間近に近づいたある日、セイボルは旅立つ準備をする。
衣装をばっちり決め、マスカート、ムッカ、カルマン、バルジに激励をされ、セイボルは気合をいれる。
その意気込みでドアを開けた瞬間、目を見開いた。
そこには、首に蝶ネクタイをつけたモンモンシューが顔を覗かせ、セイボルを迎えに来ていた。
そして、恥かしそうに後ろからジュジュがちょこっと顔を覗かせた。
「待てなくて迎えにきちゃった」
「おお、ジュジュ!」
二人の愛はこの先もずっとラブラブのままで──。
The End
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最後まで全てを読んで下さった方、本当にありがとうございました。