第二章


 通勤、通学の忙しい時間帯を避け、サトミは電車に揺られて都心へと向かっていた。
 インターネットで調べたお薦めのスポットや美味しいものなどを求めて、一人旅を装う。
 今よりももっと若かった頃、短大へ通ったり、働きに出たりで、賑やかな都心に何度も足を踏み入れたが、その頃と違って街はもっと発展してガラリと変わってしまった。
 知っていると思っていたのに、駅の様子や周りの建物が違うだけで、見知らぬ場所になってしまい、おどおどとしてまった。
 人がひっきりなしに歩いている様だけが、あの頃のままで慌ただしいものを感じるが、駅ビルのショーウインドウに映る自分の姿を見た時、自分で自覚していても、それ以上に改めて自分がとても歳を取った事に驚いてしまうものがある。
「自分の姿を見るって大事かも」
 意識して背筋を伸ばし、髪に触れて軽く自分の身なりを整えた。
「まあいっか」
 これ以上は変わらないと最後は諦め、気ままにぶらぶら歩き出した。
 人の波にそって、吸い込まれるように百貨店の中に入れば、おしゃれな物、興味をそそる物はあるが、値段を見ればどれも高いと感じてしまった。
 そんなに心から欲しいと思えなかったので、値段を見ると怯んでしまう。
 本当は財布が欲しいのだが、店員が寄ってくると、買わなければならない義理を感じるので、ついするりと売り場を後にした。
 色々と薦められるのが苦手なのだ。
 気にいる物はいつもパッと目に着いて、勢いで買ってしまう。
 そういうピピピとフィーリングを感じると、サトミは案外といいものを手にすることが多い。
 その時が来たら、値段を気にせず迷いなく買うつもりでいた。
 まだそういうのに出会えない。
 そのうち財布の方からアプローチしてくることだろう。
 とりあえず、時間はたっぷりとあるので、暫くウィンドウショッピングを楽しんでいた。
 その流れから、おもちゃ売り場までしっかりと見てしまった。
 息子がまだ小さかった時は、ポケモンが好きで、そういうキャラクターが集まったところに連れて行くととても喜んでいた。
 実家に親子で戻って来た時は、息子の手を引いてここに買い物に来ていた事も思い出す。
 あの頃はかわいかったのに、あっという間に大きくなってしまった。
 時の流れの速さはどこにいても感じてしまった。
 百貨店を一通り見てまた外に出た。
 それにしても外国人の多い事。
 時折り、店の中から聞こえてくるアナウンスもいろんな言葉が混じっていて、ここが日本なのかびっくりしてしまう。
 そんな街を歩いていると、スマホを見ながら辺りを見回している観光客が目に付いた。
 見た感じ、日本人じゃなさそうで、どの辺りのアジアから来たのだろうと思っていたら、目が合って声を掛けられた。
 片言の日本語でサトミに道を訊く。
「スミマセーン」
 サトミも、久しぶりに来て何がなんだかわからない状態なので、突然外国人に道を訊かれると焦ってしまう。
 つい気張って英語で応答しようと頑張った。
「Well, I think......」
「ニホンゴデ、オネガイシマス」
「あっ、はい。すみません」
 何を謝ってるんだとサトミは苦笑いしながら、なんとか教えると通じたようで、その観光客は笑顔で礼を言って去って行った。
「ふぅ」
 思わず息が漏れたが、その後おかしくなってしまった。
 外国人、例えそれが日本人と同じ風貌のアジア人であっても、サトミは日本語が話せないと思って英語だと自然に思ってしまう。
 日本に海外からの観光客が増えるのと同時に、日本語を話せる外国人も多くなっている気がした。 
 日本がどんどん変わっていく、そんな様子が都会だと大いに違いが見えてくる。
 サトミの若い頃といえば、まだバブルが残る時期だった。
 就職したとき、すでにはじけて下降気味ではあったが、まだ激しい変化は見られなかった。
 時期が少しずれていたら、就職氷河期で仕事を見つけるのは難しかったかもしれない。
 かろうじてサトミは上手く就職できて、この都会で暫く働いた。
 そんな事を思い出していると、急に懐かしくなって、サトミは以前働いた場所が見たくなって足を向けた。
 すでにその会社はなくなってしまったが、オフィスを構えていた高層ビルはそのままに今も建っている。
 当てもなく彷徨っているだけなので、目的があると急に活気づいて、サトミはそこを目指して闊歩した。
inserted by FC2 system