第六章


 千夏のお見舞いに行ったことで、自分の祖母がサトミと幼なじみだったことを知った唯香は、その後サトミとばったり町で会わないか願って、放課後、色んな所を歩きまわっていた。
 探そうとすればするほど、上手くサトミと出会えない。
 週末の土日は、祖母のハルカも交えて車で町内を走ってみたが、そんな簡単に行かなかった。
 一通り町を一周し、人が集まりそうな場所にあるお店に入っては、サトミが来なかったか、知ってる限りの特徴を言うも、皆同じように首を横にふるだけだった。
 写真もなく、言葉だけで説明をしても、よくわからない人が殆どで、聞いても意味がなかった。
 それでも、もしかしたら接触してる可能性も考え、唯香は諦めたくなかった。
 人が集まりそうなところは、この小さな町では限られている。
 この町で大きな電化ショップやスーパーなど、めぼしい所は一通り回った。
 今まで通りに、偶然が発動してばったりと町の中で会えると思っていたが、故意に探せば探すほど、サトミから遠ざかって行くように思えてならなかった。
 思うように会えずに疲れてしまい、暫く駐車場で車を停めて、休憩していた。
 運転席でハンドルを握りながら、ハルカは溜息を吐いた。
「もしかしたら、遠い所に出かけてるのかも。それだったら、こんなところをうろちょろしても無理よ」
「おばあちゃん、諦めちゃだめ。絶対上手くいくから!」
 唯香は自分にも言い聞かすつもりで、強く叫んだ。
「おばちゃん、どこにいるんだろう」
 貴光も車の窓の外を見ながら考え込んだ。
 ぐずぐずしてたら、サトミはアメリカに行ってしまう。
 その前に絶対会わなければならなかった。
 自分の祖母とサトミを仲直りさせてあげたい。
 唯香は諦められなかった。
「サトミさんの好きそうな場所は覚えてないの、おばあちゃん」
「サトミちゃんは、私の知ってるサトミちゃんじゃなくなってる。それに、あまりにも長い年月が経ち過ぎて、全くわからないわ」
「ダメ元でも、中学時代の友達に聞いてみてよ。もしかしたら家の住所がわかるかもしれない」
「すでに電話して訊いてみたわ。だけど、知らないって。だってサトミちゃんと仲いい人じゃなかったし、そんな人から、他にサトミちゃんの事知ってる人も見つからなかった」
 手掛かりがなくて、唯香は溜息を吐いた。
「もういいわ、唯香。千夏ちゃんに聞けばアメリカの住所はわかるんでしょ。だったら、手紙書くわ」
「手紙だけ書いても、意味ないと思う。却ってサトミさん、今頃何? って驚くだけよ」
「唯香たちを助けてくれた事を書けば、サトミちゃんだってわかってくれると思う」
「でも、サトミさん、もう日本に戻ってこないんだよ。会えないんだよ。やっぱりサトミさんが日本にいるうちに会わないと。ここまで偶然が重なってるんだから、絶対おばあちゃんに最後は繋がるんだって。おばあちゃんだけが会えないなんて、そんなのおかしいじゃない」
 唯香は信じてやまなかった。
「おばあちゃんが、心からそうだって信じなければ、奇跡は起こらないじゃないの」
「唯香……」
「おばあちゃん、僕、セレンピッピーの神様がいると思うよ」
「貴光、それ、セレンディピティだから」
 唯香は訂正した。
「それそれ! 僕絶対、おばちゃんに会えると思う」
 無邪気な貴光に、ハルカは癒された。
 自分が諦めたら、孫たちに示しがつかない。
「そうね、会えるわよね。私の孫がサトミちゃんに助けてもらったんだもの。会って、お礼言わなくっちゃ」
 ハルカは車のエンジンを掛けた。
 サトミはまだこの町にいる。
 会えることを信じて、再び車を走らせた。
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