第七章


 とぼとぼと歩道を歩き、これ以上の手掛かりが得られないと、唯香は途方に暮れていた。
「最後のチャンスだったのになんで上手いこといかないんだろう」
「唯香、まだチャンスはある。上手くいくって思わなきゃ」
 美代が励ました。
「だって、明日帰っちゃうんだよ。どうやって今夜中にサトミさんを見つけたらいいの?」
「だから、明日、直接空港に行けばいいんだよ。祝日で学校も休みだろ」
「あっ、そうか、飛行機に乗る前に待ち伏せして会えばいいんだ。それなら見つけられるかもしれない。いとこの千夏ちゃんに聞けば、アメリカ行きの飛行機の時間帯、調べてもらえるかも。おばあちゃんにも連絡しないと」
「ねぇ、私も一緒に行っていい? 空港内手分けしたら探せるかも」
「うん、そうだね。きっとおばあちゃんが車出してくれると思うから、一緒に乗って行こう。詳しい事はまた後で電話する」
「わかった。待ってる」
 美代と別れ、一目散に唯香は家に戻り、千夏と連絡を取った。
 突発性難聴が完治した千夏はすでに仕事に復帰していて、この時、会社のオフィスににいる様子だった。
 唯香が事情を話すと、千夏はすぐに理解を示した。
「わかった。もうすぐ仕事が終わるから、ちゃんと調べてかけ直すね」
 千夏と話をした後は、すぐに祖母のハルカにも電話を掛けた。
 絶望的に諦めていたハルカだったが、最後のチャンスに賭けてみたいと、空港に行くことに賛成だった。
 急にまた活気づいて来て、希望が見えてきた。
 上手くいくかもしれない。
 唯香がドキドキと電話の前でまっていると、千夏からの折り返しの連絡が入った。
 すぐに受話器をとり、食い入るように千夏の話に耳を傾けていた。
 アメリカへ飛ぶ飛行機がその日いくつかあるが、サトミのアメリカの住所から、すぐにサンフランシスコ行きの飛行機だと判明した。
 飛行機の出発は午後4時のスケジュールだが、国際線のチェックインは2、3時間前くらいにはした方がいいので、早めに来るはずだ。
 昼には空港についていた方がいいと、千夏は提案した。
 千夏も行くと言いだしたので、唯香は心強かった。
 その後は、また祖母のハルカに飛行機の時間を告げ、何時に出発したらいいか話し合い、それが決まると、美代にも出発時間よりも早めに自分の家に来てもらう事にした。
 連絡が全ていきわたり、準備が整ってほっとした唯香はこれまでの事を思い起こしていた。
 サトミが偶然に出会った人たちは、不思議なくらい繋がっている。
 美代ですら、食事を共にして、サトミから色々聞き、そして偶然サトミの出発日が分かって繋がった。
 ギリギリだけど、最後の最後で会える可能性が出てきた。
 きっと上手くいく。
 この偶然には全てに意味がある。
 セレンディピティの神様は絶対いる。
 唯香はそう思えてならなかった。
 当日は、慌ただしく車に乗り込み、皆ドキドキと冒険にでかけるような気分で興奮していた。
 だが、高速道路で渋滞に引っかかり、冒険の邪魔をする魔物にであったように、みな息を飲んだ。
「おばあちゃん、なんで渋滞してるの?」
 唯香は助手席から首を伸ばして前方を見ようとしていた。
「祝日だし、利用客も多いのよ」
 ハルカも気が気でなかった。
「ああ、なんか前方の電光掲示板に渋滞5kmってなってる」
 唯香は嘆いた。
「5キロくらいなら、大したことないって」
 後部座席から美代が言った。
「大丈夫だよ。お姉ちゃん。僕たちにはポプテピピックの神様がついてるから」
 間違った貴光の言葉に唯香と美代は笑い出した。
 お蔭で緊張が解けて、リラックスするいい効果となった。
「それはアニメのタイトルでしょうが。セレンディピティ!」
 唯香が訂正した。
 アニメを良く知ってる美代はそれがツボに入って、いつまでも笑い転げていた。
 笑った事で、気持ちに余裕が出て、渋滞もそのうちなくなり、またスムーズに車が動き出した。
 そして空港に近づいた時、千夏から電話が入った。
 唯香が受け答えして、通話を終えた後、ハルカに言った。
「サトミさん、見つかったって」
 それを聞くや否や、声にならずにハルカは息を吐いた。
「セレンディピティの神様は、きっと舞台を空港にしたかったんだ」
 美代が言った。
 空港で千夏が簡単に見つけた事も、全て最後にそうなると仕向けられたように思えてくるから不思議だった。
 サトミを簡単に見つけた千夏は、驚き過ぎて息が止まりそうだったと言っていた。
 車は空港の駐車場に入り、皆わくわくが止まらなくなっていた。
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