第一章
7
ちょっと、なんですか。
そんなに見ないで下さい。
辺に自分の周りで、ジリジリと攻められる切羽詰った押しを感じてしまう。
これは何かが始まる。
彼は確実にアクションを起こそうとしている。
ピンクレディのあの『S.O.S』の曲が流れてくる。
もう遅いかもしれない。
これは逃げられない。
しかし話せば分かってもらえる。
そんな感じで私も構えたそのときだった。
「キョウコ、アナタハ、カミヲ、シンジマスカ」
もろ、あの外国人独特の発音で、冗談でよく出てくるようなあの台詞がまさに今彼の口から飛び出した。
「はっ?」
まさにこっちも目が点。
「ワタシハ、カミヲ、シンジテマス」
「……」
そうしてベッドの隣にあったボードからバインダーを引っ張り出して、私に説明し出した。
「(僕ね、○○○○教なんだ。それで去年まで日本で宗教活動して、戻ってきたところ。皆優しくしてくれて、とても楽しかった。だから日本語勉強してるの)」
「(そ、そうですか。す、すごいですね)」
なんだか私は違う意味でものすごくここに来てはいけないように思った。
信じるものは救われる。
物腰柔らかに話すマシューは確かに、他のアメリカ人とは違う慈愛に満ちた穏やかさがあった。
だからそういう部分に安心感を感じて、ノーといえずにずるずると雰囲気に飲まれてここまでやってきてしまった。
まさか、これって宗教の勧誘ですか?
私は正直わからなかった。
宗教を否定するつもりはないけど、人から言われて入れとか勧められる行為は非常に嫌うところがある。
マシューは別に勧誘してるつもりではなく、私に全てを話そうとしていたのは、自分を知っていてもらいたいという気持ちがあったのだろう。
その時初めてその宗教の事を詳しく知ったのだが、規律が意外と厳しく、アレはダメ、これもダメ、それもダメと、ダメダメ続きで、大変そうなイメージだった。
「(ほんとにそれでいいの?)」
思わず、その宗教に入って幸せなのかと思ってしまった。
でも信じるものは救われる考え方が浸透しているマシューにとって、難はなく、その代わりにとても幸せそうな笑顔が戻ってきた。
私には理解しがたいものだったけど、口には出さずに、そうやって信じて自分を極めて行くところは素直にすごいと思った。
マシューのベッドの上、二人揃って宗教の勉強。
んー、これも初めての経験です。
マシューのこと少しずつわかっていくところなのだろう。
日本の事が好きで、日本に興味をもっていたから、私に目が留まったというところ。
これだけかっこいいのなら、地元のアメリカン女性のガールフレンドができるだろうに、マシューの拘りが私のウィッシュと重なって偶然にこんなことになってしまった。
やはりこれも何かの縁なのか。
しかし、聖書をちらつかされると、私はなんだかわからなくなってきた。
マシューは25歳でまだ大学の2年生。
一般の大学生より遅れているのは、日本に行っていたためであるが、アメリカは年に関係なくいつでも学べるところだから、海外で宗教活動しただけでもすでにキャリアとして履歴書に箔がつく。
この先色々な発展があるだろうと思うと、私がここで知り合って仲良くしてもらってる事が貴重なことのように思える。
この時はお友達で、このまま楽しく過ごせたらいいだろうと思っていた。
私もここで終わっていればこの先もっと楽だったかもしれない。
どちらもまだこの出会った状況が運命のように感じてしまうところがあったから、私達はどんどん先に進んで行くことになった。
私はそんなの無理だと分かっていたのに、上手く表現できずにただその状況に流されて行く。
この後もまだこのデートは続いてしまった。
そしてどんどん、お互い惹かれていって、期待が大きく膨らんで更にもっとロマンティック街道まっしぐら。
どこまでこの恋進んでいくんでしょうか、七面鳥さん。