レモネードしゃぼん

その後 前編4


 その後は、乗り物に乗ってストーリー仕立てのシーンを見て回るアドベンチャー物に入り、これは無難に何もなく終了。
 次は大型シアターで3D映像を観たが、これもイマイチ二人の間が盛り上がる要素もなく、ただ映画を観ただけで終わった。
 もう少しハラハラして、ドキドキするものはないのかと樹里が思案していると、いいものを見つけた。
「よし、今度はあそこに行こう。かなり空いてるよ」
 何も知らずに奈美と亜藍は樹里の後を着いていく。
「それじゃ、お二人さん、行ってらっしゃい」
 と樹里が二人の背中を同時に押したが、二人はお化け屋敷と書かれた気味の悪そうな建物を見て怖気づいた。
「私、お化け屋敷は苦手」
「俺も、怖い」
「何いってんのよ。怖くないから。とにかくたまには二人だけで遊んできなよ」
 樹里がそういっても二人の足は動かなかった。
 もうどうしようもないと、樹里は二人の腕を掴んで引っ張って建物の中に入っていく。
「ちょっと、樹里ちゃん、私怖い」
「お、俺も」
 嫌がる二人を両腕に抱え、樹里は溜まったイライラを発散させるかのごとく闊歩する。
「もう、お兄ちゃんも奈美ちゃんもいい加減にしてよ」
 そうして入り口をくぐれば、そこはもう闇と言うくらいの恐ろしい雰囲気にすっぽりと飲み込まれた。
 入ってしまった以上後戻りはできないと、亜藍も奈美も体を強張らせて前屈みになっておどおどと歩く。
「ちょっと、どうして二人に腕を抱きつかれなくっちゃならないのよ。しかも痛い。離しなさいよ」
 樹里が二人の手を払おうとしたとき、いきなり何かが飛び出して脅かしてきた。
 これには皆びっくりしたが、亜藍と奈美がさらに食い込むように腕にしがみついてきたので、抱きつく相手が違うと情けなくなった。
 それからはどんなに二人の手を振り払おうとしても、溶接されたようにくっついて離れない。
 こういう場合だからこそ、二人で体を密着して欲しいのにと、樹里はことごとく上手く行かないので次第に腹が立ってきた。
 次々にお化けに扮した人や仕掛けが飛び出してくるが、キャーキャー騒いでいるのは自分の両隣にいる亜藍と奈美だけで、樹里はお化けが出てくる度に八つ当たりするように睨み返していた。
 苛立ってると、怖い気持ちなどどうでもよくなるらしい。
 出口が見えて明るくなったとき、やっと二人は手を離し、怖くて怯えていた気持ちが急になくなると、何かが弾け飛んだように今度は笑い出していた。
 亜藍は眼鏡がずり落ちてふにゃふにゃしてるし、奈美も気が抜けてヨタヨタしている。
 ドキドキどころか、却って逆効果となり樹里はもうダメだとため息を吐いていた。
 それから二人をくっつけようという気持ちも起こらなくなり、好きにしてと気を遣わなくなった。
 だから家に帰ったとき、樹里はむすっとしてしまい亜藍を無視する。
「おい、樹里どうしたんだよ。今日は樹里のお陰で楽しかったって奈美もすごく喜んでたのに、なんでそんなに機嫌が悪いんだ?」
「お兄ちゃんさ、ちゃんと立場分かってる? もうすぐフランスに行っちゃうんだよ。それでいいの?」
「そんなの分かってるよ。でもどうして樹里がそのことで怒るんだ?」
「もう知らない」
 樹里は益々機嫌を損ねて階段を駆け上がり、自分の部屋に篭ってしまった。
 母親は側で樹里の行動、そして亜藍の思いを感じ取って温かく見ている。
 亜藍が母親の顔を見て何か助言を欲しがっても、何も言わずに忙しいと台所でごそごそと動き出した。
 亜藍は気にしても仕方がないとリモコンを手に持ちテレビをつける。
 そして暫くソファに座ってテレビを見ていた。
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