その後 前編5
樹里は自分のパソコンに、この日写したデジカメの画像をアップロードする。
その画像は天気もよかったために色鮮やかで、自分の腕もいいからときれいに写っていることに満足した。
楽しそうにしている亜藍と奈美の様子が、しっかりとそこに写り込んでいた。
「だけど、奈美ちゃん、お兄ちゃんのことそんなに好きじゃなかったのかな。私が奈美ちゃんだったらもっと大胆にアプローチして側から離れないのにな」
写真の二人は笑顔で和気藹々としているが、あくまでも幼馴染の枠から脱しきれていない。
手を繋ぐわけでもなく、肩を抱くわけでもない、そこには自然のままにただ笑って、ふざけている二人が写っている。
それは樹里が、小さい頃からいつも見ていた二人の姿だった。
早速その画像を奈美のメールアドレスに添付して送る。
送ってから間もなく、奈美から返信が届いた。
奈美も偶然コンピューターの前にいたようだった。
そこにはありがとうという言葉と、とてもいい写真を撮ってくれたんだねという、驚きと嬉しいという気持ちが書かれてあった。
「そう思うんだったら、もっと大胆になって近づけばいいのに」
すぐに返信をクリックして、正直に自分の思うことを書こうとしたが、ふとキーボードを叩く手が止まった。
結局は自分が言いたいことを言えば、自分がすっとするだけで、奈美は傍迷惑の何者でもないのではと頭によぎる。
奈美は言っていた。
『亜藍のお尻叩いても、亜藍は変わらないと思う』
この言葉の裏を返せば、奈美がどう動こうとも亜藍は何も変えないということだと樹里は気がついた。
奈美はちゃんと分かっている。
分かっていて敢えて普通を装っている。
本当はとても辛い気持ちを胸に抱えて、それでも笑顔になろうと必死なのかもしれない。
樹里は、カエルのキャラクターと一緒に写る二人の写真をもう一度見た。
そこには自然に笑っている二人の笑顔がある。
もうすぐ離れ離れになるというのに、自然に笑おうとする方がどれだけ辛いものであるか、二人の顔を見て樹里はなんだかいたたまれなくなってきた。
自分がイライラしていた気持ちが恥ずかしく思えてくると、おもむろに樹里は椅子から立ち上がり、下へと降りていった。
「お兄ちゃん」
ソファーに座ってテレビを見ている亜藍に声を掛けると、亜藍はまた何か文句を言われると思い身が竦んだ。
「さっきは怒ってごめんね」
「なんだよ、一体何があったんだよ」
「別に何も。さて、そろそろお風呂沸いてるかな」
樹里は何も説明しない。
亜藍は納得がいかないと顔をしかめていたが、それは一瞬だけで、観ていたテレビにまた視線を移した。
樹里が風呂場に向かうと、湯加減を確かめていた母親と脱衣所で出会った。
「ちょうどお風呂沸いたわよ」
「ねぇ、ママ」
そこからすぐに出ようとしていた母親を樹里は呼び止めた。
「ん? どうしたの?」
「ママもパパと出会ったとき色々と悩んだんでしょ」
「そうね、どうしていいか分からないくらい色々とあったわ」
「でもママとパパは結婚したよね」
「結果的にはそうなったけどね。人生どうなるかわからないわよ。本人も分からないんだから周りに居る人は尚更分からないし何も出来ないよね」
「そうだね」
母親の言いたいことが理解できたとばかりに、樹里は笑顔で答えていた。
母親も鼻歌交じりでその場を去っていく。
真面目に歌ってないのか、音痴なのか、それでも「ケセラセラ」という曲だというのは分かった。