第三章 感じる予感
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「なんか、汚い場所に来ちまったけど、ほんとにここで間違いないんだろうな」
気に食わないと顔を歪め、マイキーは警戒しながら船を操縦していた。
この辺りは、宇宙開発で使われ、要らなくなった部品や壊れてしまった宇宙船が無残に浮遊している。
ジャンクヤード化した宇宙空間は、治安の悪そうな雰囲気が一層漂っていた。
「ああ、この辺りに依頼主の工場があるはずだ」
クレートは手元のコンピューター操作ボタンを素早く叩いては、情報の間違いがないか再度確認していた。
「おい、あそこにみすぼらしい、がたがたしてそうなコロニーがあるぜ。あれじゃないのか」
ジッロが指差した前方には、ジャンクに囲まれて小規模なコロニーが浮かんでいた。
錆付いた鉄の塊のようにも見え、住み心地の良さそうな住居地ではなさそうだった。
どうみても、人が生活するよりも、何かを生産することを優先的に作られた工場用コロニーだった。
マイキーは周りのデブリに気をつけながら、そこを目指して慎重に進んでいった。
見るもの全てが珍しく、キャムは好奇心旺盛な目になり、初仕事に向けてやる気になっては、ワクワク感が止まらない。
隣にいたクローバーは何を考えているのか分からない表情で、キャムを一瞥していた。
少し操縦室の事を補足すれば、マイキーは操縦という重要な役割で船の前、中央席で操縦桿を握っている。
その右隣、少し離れたところでは攻撃に備えてのミサイル発射や、レーザー光線をコントロールする席となり、そこはジッロが陣取っていた。
マイキーにもしもの事があれば、船を操縦できるサブ席にもなっている。
その後が高台になって、操縦室全体を見下ろせる指令席があり、クレートがそこから絶えず指揮をしては全ての指示を出していた。
新しく加わったキャムとクローバーはマイキーの左側に席を設けられ、アシスタント的に船のことを任されていた。
レイダーで敵の位置を知らせたり、船に異常がないかチェックするといった事だった。
成り行きで命名されたfour-leaf cloverデリバリー・サービスは、初々しくスタートしたばかりである。
それを意識していたのはキャムだけだったが、どうしても初仕事は成功させたいという気持ちで一杯になっていた。
その気持ちはクローバーには読み取れたのか、優しくキャムの肩に触れ、その緊張を緩和させていた。
キャムははっとして、クローバーを振り返るが、無表情ながらも、不思議とその優しさが感じ取れた。
それに答えるように、キャムは微笑んでいた。
「ジッロ、念のため警戒して、攻撃態勢に備えておいてくれ。マイキー、もし危ないと判断したらすぐに回避して船を安全な場所に飛ばせ。キャム、クローバー、船の周りに目を光らせて怪しいものはないかチェックを怠るな」
クレートの指示が出される。
一同は「ラジャ」と返事をし、皆と一緒にハモれたことにキャムの興奮が一層高まった。
「キャム、とにかく落ち着くんだ。初仕事だから緊張するのは分かるが、声が裏返っているぞ」
クレートに指摘され、キャムははっとした。
「は、はい」
出来るだけ落ち着いた声というより、男に扮しようと低い声を出していた。
自分はここでは男になりきらないといけない。
気を許せば、地のままの自分がでてきてしまう。
キャムは口元を一文字にしては気を引き締めていた。
コロニーに近づくと、従業員らしき人々も、宇宙スーツを着込んで、回りに漂う部品を解体している姿が目にはいった。
主にスクラップを集め、それを再利用するためにリサイクル資源に作り直しているようだった。
船が近くまで寄ると、コロニーの出入り口の扉が開き、そこから入れと催促された。
マイキーは慎重になりながら、中に入っていった。
「あんたが、ウィゾーがいっていたクレートか」
分厚い唇には葉巻をくわえたまま、見下したように話す、人相の悪い男が現れた。
誰もが信用置けない悪い奴と直感で感じる。
だがキャムだけはじっとその人相の悪い男を見つめて首を傾げていた。
背筋を伸ばしたクレートが、その男の前まで静かに歩いた。
「そうだ。早速だが、すぐビジネスに取り掛かろう。配達する荷物はどこだ」
「ここに積み上げてあるものが全てそうだ。これをセカンドアースまで確実に運んでくれるか」
「おっさん、もちろんだぜ。俺達に安心して任せな」
ジッロが野暮なことは聞くなと自信を見せた。
「そうか、それなら安心だ」
「それで、この荷物は一体何が入ってるの?」
マイキーが積み上げられた、コンテナに近づき、軽くタップした。
「そ、それは、この工場で生産されたリサイクル資源だ。とにかくだ、それを無事に届けて欲しい。金はすでにウィゾーに払い込んである」
「わかった」
クレートがジッロとマイキーに指示を出し、リフトを使って荷物を船に運んで行く。
男は不安そうにその様子を見ているとき、キャムが側に寄って話しかけた。
「おじさん、この荷物の中身、危険なものじゃないですよね」
「な、何をいうんだ。ただのリサイクル資源だが」
「おじさん、嘘ついてますね」
「おいおい、お前は一体何をいうんだ。運びやなんだから、頼まれた荷物を運べばいいだけだろ」
イライラとして、口にくわえていた煙草を地面に叩きつけて足で踏みつけた。
「おじさん、どこか心配してる。それにこれは運びたくないってそんな声が聞こえてきます。おじさん躊躇してます」
男がはっとして、キャムの顔を見つめる。
「ガキのくせに、何を馬鹿な事を言ってるんだ」
「おじさん、正直に話して下さい。僕、なんだかこれは運んじゃいけないような気がするんです。違いますか?」
男は目を見開いて、キャムを見つめた。