第三章


 食事は交替で済ました後、再び全てのメンバーが操縦室に揃っていた。
 あと半時間ほどで、目的地につくとマイキーが知らせると、クレートは注意事項を皆に伝える。
「我々が向かう先は、巨大コロニー同士がいくつもくっつき、いわゆる宇宙の大都市と呼ばれる地域だ。ここはある種の人類の坩堝(るつぼ)とも呼ばれ、多種 にわたる民族が混ざり合って生活している。その分、自分が埋もれないために主張が激しく、積極的な輩が多いと言われている。血の気の多い奴が沢山というこ とを忘れないで欲しい。それと、ネオアースからの援助もずば抜けており、必要な物資や多彩な娯楽が充実している。宇宙に追いやられた人間達が不満を持たな いようにと楽園を想定した都市だということだ。だが実際は、かなり治安が悪く一攫千金を目指して無法者が集まって来ているらしい。とにかく一層身を引き締 めて行動して欲しい」
「わぉ、今回の仕事は結構大きかったんだ。ネオアースの息がかかってる所に荷物を運べるなんて俺たちついてたみたいね」
 マイキーは目を丸くさせて喜んでいた。
「だからあのウィゾーの奴、自分の儲けを4割なんてふっかけてきやがったんだ。クレートがこの大きな仕事を断らないの分かっててわざとやったってことか」
「ジッロちゃんは相変わらず、熱い男だね。ちょっとそれは考えすぎかもよ。まあ、4割も引かれるのは俺もやりすぎに思えたけど、それでもそれだけのメリットがあったから4割引かれても俺たちにはそんなに損はないってことなのかもよ」
「そうだ。マイキーの言うとおり、ウィゾーが自分の取り分を多く取るときは、大きな仕事ってことだ。私は別に弱みを握られているわけでもない。嫌なときは断ることもできる」
「まあ、仕事を選べるほど、俺たちまだまだ世間に知られてないからな。やっぱりウィゾーのいいなりになりがちだな。なんか悔しいぜ。早くこの業界で名をあげて、大きな仕事が一杯取れるようになりたいぜ」
「焦りは禁物だよ、ジッロ。大丈夫、大丈夫」
 マイキーが慰めている。
 キャムは黙って聞いていたが、どこかで自分も役に立ちたいという気持ちが強く芽生えていた。
「ところでさ、今回仕事が終わったら、ちょっとその巨大都市のコロニーで羽伸ばさないか。そろそろ、物資も底をついてきたし、買出しってことで少しのんびりしようぜ」
 ジッロが提案すると、マイキーはすぐに頷いて「グッドアイデア」と同意していた。
「そうだな。キャムとクローバーもメンバーに加わったことだし、歓迎の意味も込めて何か美味しいものでも食べに行くのもいいだろう」
 クレートも反対はしなかった。
 キャムはその言葉に反応して、クレートを見つめると、柔らかな笑みが返ってきた。
「あ、ありがとうございます。なんだか嬉しいです。ねっ、クローバー」
「はい。そうですね」
「よっしゃ、それじゃ決まった。早く仕事を終了させなくっちゃ。さあ、皆さん、しっかり摑まってて下さいよ。少し飛ばしますよ」
 マイキーは操縦桿を握る手に力を入れていた。
 宇宙からの船が大型コロニー集落に入るためには、海で船が港に停泊するように、ここにも宇宙船専用の入り口がある。
 そこでは入管検査というものが一応必要になってくる。
 特に仕事で入るときは、積荷がチェックされ、面倒臭い書類手続きを取らなければならない。
 クレート達の船がそこへ到着したとき、スタッフに誘導されて所定の場所に着陸し、マイキーもふーっと息を一つ吐いていた。
「さあてと、一段落した。クレート書類の準備たのむよ」
「あーあ、まだまだ時間がかかりそうだな。面倒臭い手続きだぜ」
 ジッロは手足を伸ばしながら大きく欠伸をした。
 クレートは書類を手にし、船から下りて受け取り主の交わした契約書のコピーを見せるや否や、それはあっけなく終わってしまった。
「手間をかけて申し訳ないが、ネゴット社への荷物は専用ゲートが設けられてある。この反対側になるが、そこからもう一度入ってもらえないか」
 書類にネゴット社行きと書いてあるだけで、管理局の態度は柔軟であった。
 ネゴット社は、この巨大コロニー都市では名の知れた大きな組織で、かなり街や市民に貢献しているらしかった。
 いくつかの娯楽施設や、ビジネスを牛耳っており、このコロニーの支配者と言ってもいいくらいの地位にいた。
 それだけで荷物を運んできたものにも特別優遇する。
 クレートは再び船に戻り、その事をマイキーに伝えると、マイキーは気前よく、専用ゲートを目指した。
 先ほどのゲートがある場所と違い、出入りする船はあまりなく、どこか裏口のようで寂しい雰囲気が漂っていた。
 それだけ限られたものしか入り込めない特別ゲートとして、秘密の出入り口扱いされてるようだった。
「なんだか、そのネゴット社というのはここではかなり優遇されてるみたいだね。これは久々に信用に繋がるんじゃないの? ウィゾーも中々いい仕事もってきたじゃない。ちょっとぼったくられたけど」
「ああ、悔しいけど、これは吹っかけられても仕方がないって思えるぜ」
 マイキーとジッロは結局はお金のことよりも、仕事の大きさの方にメリットを見出していた。
 キャムは二人の言ってる意味がよく分からなかった。
 それもそのはず、キャムはクレート達の本当の目的をまだ知らされていない。
 その部分は三人も暗黙の了解でキャムには伝えるつもりはなさそうだった。
 キャムはあくまでも仕事の一員としては迎えられたが、政治的な紛争には蚊帳の外に置かれていた。
 そんなことよりも、この時のキャムには一抹の不安がよぎっていた。
 クレートと一緒に荷物が怪しいものではないか調べたが、結局は自分の思い違いで済ませてみたものの、やはりまだどこかで何かが引っかかっている。
 あの時、送り主であったあの男が抱いていた懸念の気持ちを感じ取ったことは消化できてなかった。
 なぜ男の気持ちが自分に伝わったのか。
 それもよく分からないまま、時々キャムは人の気持ちが読める、説明できない感覚に囚われる事がある。
 心に直接語りかけてくるような声が聞こえるのだった。
 コールドスリープカプセルを置いた付近に生えていた四葉のクローバーを見つけたときも、声が先に聞こえた感じがしていた。
 特殊な能力を持つと自分でいいきるほど、まだ自信がないくらいの不確定な感覚だった。
 一体それが何なのか、自分も説明できず、そのため人には言えずにいた。
 今回はクレートに初めて自分の感じた気持ちを伝えてみたが、その根拠となる理由が見つからなかったために、やはり何も証明することはできなかった。
──自分の気の回しすぎだといいのだけど……
 ふと祈るような気持ちで、船は専用ゲート内へと入っていった。
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