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そして気がついたとき、私は白い天井を見つめ、口に何かをかぶせられスースーとしたものを送り込まれていた。手を動かそうとしたとき痛みが走った。
周りに居た人たちが忙しそうに慌て出した。その中に私の名前を呼ぶ、父と母の姿があった。
バタバタと足音が聞こえたかと思うと数人に取り囲まれ、あちこち体を触られて「もう大丈夫です」という声が聞こえてきた。
次第に頭の中がはっきりすると、ここが病院だとわかった。そして怪我をしている。まるで事故にでもあったかのようだった。
事故──。
突然頭の中でフラッシュした。失恋して悲しみにくれてボーっと歩いているとき、信号を確かめずに渡っていた交差点。そして車が私に突っ込んできた。そ
う、私は事故に遭っていた。
あの時、街を歩き回っていたのは生死を彷徨っていたってことなんだ。
それじゃ、あの男性はほんとに一樹君だったってことなの?
一樹君は小学二年生のとき家族で乗っていた車が事故を起こして帰らぬ人となってしまった。子供心ながらショックでいつまでも心に残り、それ以来私はどう
しても一樹君のことが忘れられなかった。そして一樹君も私を覚えていてくれたってことなんだろうか。
一樹君が夢見た空。そして私に見せてくれた虹。
空が無限にあるようにそれと同じくらいの夢が一杯詰まっている。目に見えなくともそこにあるんだって言いたかったってことなのかもしれない。
「私にはまだ早いって言ってた。そっかそうなのか。私はまだあっちにいっちゃいけないんだ」
側で泣きじゃくってる両親。
安心したように笑みを浮かべている看護師と医師。
私の命は救われた。
でも体を動かそうとすると激痛が走った。
仕方がない、生きているんだから。
だけどこれからが大変かもしれない。
課題は一杯だった。
私は窓を見た。
寝ている角度から空が少ししか見えなかったけど、あの空から一樹君が私に手を振っている。
頑張れって応援してくれているのかもしれない。
空は無限、夢も無限。
そして何度でも無限にやり直せる。
可能性はいつでも無限だから。
ただ諦めなければいいってこと。
だから私は空を見つめる。
無限に広がる空の中にちっぽけな地球が一つ。
そこでさらにちっぽけに暮らしている自分。
でも心の中には宇宙と同じくらいの空が広がっている。
一樹君、そう言いたかったんだよね。
一樹君の微笑む笑顔が想像できた。
私の中ではとびっきりハンサムにかっこいい笑顔となっていた。
《The End》