第三章


 アクアロイドの作る手料理は、限られた食材を使いながらも最大限に美味しさが引き出されていた。
「どうですか、お口に合いますか?」
「うん、旨い、旨い。さくさくプリプリして、これなんてすごく上品な味になってる。これ一体何?」
 マイキーは目を細めて味わっていた。
「はい、それは天ぷらです。結構そのさくさく感を出すのはコツがいるんですよ」
「へぇ、天ぷらか。でもこのプリプリする中身は一体何だ?」
 ジッロはこんな食材置いていたかと首を傾げる。
「それは、食用芋虫です。あまり食べられてないのか、在庫が一杯あったので、工夫して使ってみました」
「えー、あれがこれになるのか。すごい。食用芋虫は宇宙の常備食料としては生きたままストックできるけど、いくら新鮮な高タンパク源といっても、見た目がどうも敬遠してしまうところがあるからな。しかし、この調理方法は旨いわ。なんか見直したぜ」
 素直にジッロが気に入ったことでアクアロイドもほっとしていた。
 缶詰も上手く利用して、こまごまとした料理が用意され、宇宙食にしては最大限に味を引き立たせ、どれもジッロとマイキーを唸らせた。
「もっといい食材が手に入れば、ご馳走が作れるんですけど、どうしても宇宙食には保存タイプばかりで新鮮なものがないですからね」
「またどこかの星やコロニーに降り立ったとき、調達することもできる。その時はすごいもの作ってよ」
「はい、かしこまりました。マイキーは何が好物なんですか?」
「そうだな、プライムリブなんか食べたいな。ホースラディッシュ入りのサワークリームなんか添えてさ」
「おっ、それもいいけど、俺は熱々のピザとかがいいな。こうとろーりとチーズがとろける感じの」
 ジッロはジェスチャーでそれを表す。
「マイキーはプライムリブ、そしてジッロはピザですね。分かりました。ところでクレートは何がお好きなんでしょう」
「うーん、あいつは文句なく何でも食べるからな。特別好きなものって、そういえば聞いた事ないや。マイキーは知ってるか?」
「ジッロも知らないのに、俺が知るわけないじゃない」
 二人はそんなことはどうでもいいと、目の前の食事に夢中になっていた。
「あっ、クレートの分も残してあげて下さいね。ちょっと呼んで来ますね」
 アクアロイドは操縦室にいるクレートを呼びに行く。
 クレートはその時、コンピューターと向かいあって、何かを計算していた。
「あの、お仕事はそれくらいにされて、お食事をお召し上がり下さい」
「ああ、ありがとう」
 アクアロイドはクレートを見つめたまま、突っ立っていた。
「どうかしたのか」
「いえ、その、まだ信用されてないのに、お礼を言われたから、ちょっとびっくりしました」
「信用してないか。そうだな、確かに私はどこかでまだ君を疑っている。それは未知な部分が大きいために、私にはすぐには受け入れられないだけのことだ。 ジッロもマイキーも私を信頼して、常に私の指示で動いてくれる。だからこそ、私は常に慎重にならざるを得ない。二人を危険に晒すことだけは避けたいからね」
「キャプテンの鑑ですね。そしてとても冷静で先を常に見ている」
「アクアロイドにお世辞を言われるとは思わなかった」
「お世辞じゃなく、本当に思ったことです。あなたは、自分のことよりも周りの事を優先させ、その判断は的確。だからジッロもマイキーも安心してあなたについていける。まだお会いして間もないですけど、私はそう判断しました。あなたなら、私も心からお仕えできそうです」
「それは、私を油断させるための言葉かい? なかなか口が上手いもんだ」
「そう思われるのならそれでもいいです。でも私はあなたに拾われてとてもよかった。それだけは信じて下さい。さあ、どうかお食事をして下さい」
「わかった。君の手料理の腕を拝見しようではないか」
 クレートはコンピューター操作を終え、立ち上がった。
 カプセルをまた一瞥し、眠っている少年の顔を再び確認する。
「この子だが、ほんとに君は何も知らないのか?」
「申し訳ございません。私にはなんとも」
「まあいい、明日になれば何か情報をこの子から直接得られることだろう」
 クレートは操縦室を出て行く。
 その後をアクアロイドもついて行くが、その前にもう一度振り返り、祈るような気持ちでカプセルを見つめていた。
 カプセルの中の少年は、何も知らずに静かに目覚めの時を待つ。
 真っ白な心にその時映るものは、この先の運命を決めるものに違いない。
 その時が来るとき、この子はどうするのか。
 アクアロイドは何気ない顔でありながら、頭の中で色々と巡らせていた。
inserted by FC2 system