第二章


「そう、あなたが書き換えたのね。だったらフーの口を借りないで自分の姿を現したらどうなの。隠れてこそこそしてるなんて卑怯よ」
 尖った目をして私が非難すると、フーは自分じゃないと首を横に振る。
 もちろんそれは分かっている。フーのあどけない顔から、あの意地悪な言い方がでてくるのはミスマッチだ。
「僕、嫌だ。どうせならフームを乗っ取ってよ」
 泣きべそをかきながらフーはフームを指差す。
「いくら僕がいつも不機嫌だからって、仲間を蔑むような口の聞き方はしないよ。僕だってやだ。フーって人になすりつけて白状だね」
 フームはむすっとして、フーを睨み返した。
「おいおい、そこで兄弟喧嘩を始めなさんな、余計にややこしくなるじゃろ」
 ウェアがフームを宥める。でも小さすぎて足元にいたらふたりに蹴られそうだ。
「アタチがあんたをここにつれてこようか。今どこにいるの?」
 ウェアがフーの周りを飛びながらいった。
「それはできない。ネットの世界と同じさ。好き勝手に不特定多数の集まる場所で言っても、誰が言ったなんてそう簡単には見つからないだろ。正直な言葉を匿名で発して何が悪い。みんなやってるじゃないか」
 この男の言う通りなところもある。みんな好き好きに思う事をネットで垂れ流している。それを目にすることは珍しくない。
 ただ自分の事が出てくると嫌な書き込みには非常に反応してしまうのが辛い。
「だけど話を書き換えるのは卑怯よ。それあなたの物語じゃないんだから」
「さあ、どうかな。まだ正式に本になってない話は、読み手の意見に左右されることもあるだろう。ましてや、本になると決まった話は編集が入って書き直しさ せられる。物語っていうのは正式な形になる前はどんどん変化してしまうのさ。ましてや本にもならない物語は意見を言われる事を有難く思え」
「そんな」
 書き手は常に読み手に従わないといけないのだろうか。自分の書きたい事が書けない。
 展開がついていけない、思った通りにならない、つまらない、もう読まないから――過去にもそんな言葉を言われた事があった。
 ショックでもあったし、それが自分の実力でしかないからただ悲しくてたまらなかった。
 それよりも読まれる機会がないことが多くて、タイトルを見ただけでつまらないと思われる方がさらに辛い。
「まあいい。今回はちょっと意地悪も入ってるかもしれない。とにかくミシロの物語をこのまま続けてみな。どうせ、佳奈はこのあと拓海を探し出すんだろ。瀕 死の拓海は佳奈に強くなれと希望を託してそして死んでいくパターンじゃないのか。佳奈はこの後成長して強くなり、そして亜由美との問題を自分で解決してよ りも戻るんじゃないのか」
 確かに筋はそんな感じだ。
 王道だから読み手にはぐっとくるものがあると思う。ある程度話の筋が読めても書き方が悪くなければ、感動は作れるはずだ。
「それじゃ見せてもらおう」
 そういった後、フーの体はまた普通に戻った様子で、フーは何度も「僕じゃない」からと繰り返していた。
「わかってるわよ、安心しなさい、坊や」
 ウィッチが大きな胸の谷間にフーを押し付け、慰めようと抱きしめる。
 フーは慌てて手をバタバタしていたけど、気持ちのよさに気がついてそのうち顔を赤らめて鼻の下を伸ばしていた。
「あっ、フーの奴」
 フーズは悔しがっていた。
 盛り上がっていた時にすっかり水を差されてしまい、私の気持ちが沈んでしまう。折角のやる気がいっぺんに跳んでいってしまった。
「ああいう輩はどこにでもいる。いちいち気にしてたら話にならん。ミシロ、とにかくわしはあんたの物語が気になるぞ。なぁ、みんなもそうだよな」
 体は小さいけども、年の功でウェアは雰囲気をよくしようと気遣ってくれる。
「とにかく、最後まで物語を続けなきゃ。ここで放っておくわけにはいかないわ」
 ウェアも私を焚きつけようとする。
 文句が入ったり、自信がなくなったり、気分が乗らなかったり、またアイデアが浮かばないこともあるけども、もしそこでやめてしまったら物語がそのままで終わって永遠に結末を迎えない。
 私はそれだけはいやだ。物語を書き出したら必ず最後まで書く。それが私のモットーだ。だから負けない。
 私はコンピューターの前に向かいそしてカチャカチャとキーボードを操作する。
 スクリーンには佳奈が映り、みんなそれに釘付けになっていた。

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