良いも悪いも消しゴム・ガロア

10
 僕と哲司は遥の家の庭を囲んだ塀に沿って、まどろんだ明るさの中、肩を並べて歩く。
「俺たち、遥を守ろうな」
 哲司がさりげなく言った。
 それがさまになってカッコいいから、僕は嫉妬してしまう。
「ばーか、哲司が勝手に守れよ」
「おい、お前、遥を見捨てるつもりか」
「違うよ」
「じゃ、だったらなんでそう、意地悪なんだよ」
「意地悪も言いたくなるんだよ」
「賛太らしくねぇな。一体どうしたんだよ」
 僕は答える代わりに溜息を吐いた。
 僕が今回の一騒動で分かったことは二つ。
 一つは犯人の事。
 これは本人も自白したから、あっさり片付いた。
 そしてもう一つ。
 これは中々自白してくれそうになかった。
 でも僕は気づいたんだ。
 遥は哲司が好きだということ。
 あの消しゴムを遥が見つけたとき、もし僕のことが好きなら、一番最初に僕に見せに来たはず。
 だって、僕は、賛太だから。
『マイ ネイム イズ サンタ クロス』
 あの消しゴムが僕の名前と繋がらなかったことは、遥の気持ちは哲司に向いているということだ。
 あの消しゴムは僕の分身だというのに。
 僕は賛太でサンタ。
 サンタクロースのサンタと同じ音。
 普通、一番最初に連想するってんだよ!
 やっぱりまた溜息が出た。
 学生ズボンのポケットにも、消しゴムが一つ入っている。
 これは願いが叶いそうもない。
 人間あきらめが肝心。
 僕はそれを取り出し、力のままに思いっきり上にほうり投げてやった。
 それは暮れかけた空に向かっていった……はずだった。
 だが投げた場所が悪かった。
 まだ遥の家の庭、ちょうど池がある辺りの塀の近く──
「おい、ちょっとそこのお前、待て!」
 後ろから怒鳴った声がする。
 振り向けば西野川が僕を睨みつけていた。
「まさか、お前が、石を投げた犯人か!」
 西野川の手には、さっき投げた消しゴムが握られていた。
「やばい。哲司、走るぞ」
「おい、賛太」
 僕たちは、一目散に駆けだした。
 そんなことをしたら余計にあやしまれるというのに。
「待ちなさい!」
 後ろから西野川の声が聞こえる。
「誤解です。僕じゃないです。李下に冠を正してしまっただけです」
 必死に言うも、僕はなんだか笑けてきてしまう。
 因果応報なんてクソ食らえ。
 運が悪い時は悪い。
 でもいいこともきっとあるに違いない。
 人生山あり谷ありだから。
 今、僕は必死に走る。
 必死になったとき、僕は哲司よりも早く走れることに気が付いた。
 もしかしたら、僕にもまだ逆転の余地があるかもしれない。
 希望が見えたところで、後ろを振り返ると、西野川がまだ追いかけてきていた。
「うわぁ〜」
 とにかく、今は逃げるが勝ち。
 でもこの後どうなるかわからないけど、明日は明日の風が吹くのだろう。
 その時、僕は少しだけ今とは違う自分になってそうな気がした。


The End
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