良いも悪いも消しゴム・ガロア


 中学に上がってから僕たちは、小学校にいた頃と違った急激な成長をしている。
 特に哲司はそれが著しく、春が過ぎ行き夏を迎える間に、僕よりも身長が伸び、顔つきも男らしくなってきた。
 ますますしっかりしてきたのだ。
 クラスでも女子達に一目を置かれるくらい、もてていたと思う。
 僕もそんな哲司の友達ということで、クラスではイケてる部類に思われていただろうか。
 全くその点については自信がない。
 僕はいつも哲司のコバンザメだったから。
 でも哲司といるととても居心地がいい。
 遥も、哲司に声を掛けられて最初は戸惑っていたけど、哲司の飾らない態度と気さくさに、次第に笑顔を見せては打ち解けていった。
 僕たちが仲良くなるにはそんなに時間はかからなかった。
 遥は僕たちと一緒にいる方が楽だったのかもしれない。
 小学生の時のイジメのせいか、はたから見ても女子たちと過ごしにくそうにしていたし、女子たちもあまり感情を出さない遥とは仲良さそうにも思えなかった。
 そんなときに、女子に人気の哲司が現れる。
 遥も哲司から優しく声をかけられたら、邪険にできなかったのかもしれない。
 僕もその隙をついて、一応長所であるお人よしさをアピールしながらヘラヘラと愛想よくする。
 できるだけ遥が僕と話しやすいように──
 でも僕は無理をしていた。
 なぜなら、僕はいつの間にか遥を好きになっていたし、哲司には西野川への制裁のために遥を利用しようとする疑いが拭えなかったし、様子を窺(うかが)いながら表面だけは笑顔でいるのは結構疲れたからだ。
 静かに不穏(ふおん)な何かが潜んで、僕は不安定に常にハラハラしては、遥を見てドキドキする。
 毎日不安なのか楽しいのか、それともこれが多感な年頃というのか、僕はこの三人のバランスをいつまでも保とうと必死になっていた。
 
 だが、ある晴れた日の校庭での朝礼会で、校長先生が全校生徒に注意をしたことで、事態は急変した。
「昨日、○○小学校の西野川教頭先生の庭の池に、石を投げた生徒がこの学校にいるかもしれないと報告を受けました」
 それを聞くや、笑い声がどっと上がった。
 大体の生徒は、西野川の事を知っていて、ザマアミロという気持ちだったに違いない。
 だが僕は笑えなかった。
 それが何を意味するのか、疑念だけが膨らむ。
 だけど、どうしてまたそんな事が起こったのだろうか。
 僕は、最近哲司に変わったところはなかったか、考え込んだ。
 心当たりがあると言えば、あるが、でもそれは僕に関することで哲司には全く関係ないはずだった。
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