良いも悪いも消しゴム・ガロア


「あの時、俺が拾った石は、必要なくなったから、自分の家の前に捨てたよ。俺のことずっと疑ってたのか?」
「そういう哲司だって、僕を疑ってたのか?」
「だって、あの消しゴムを西野川の庭に投げたの、お前だろ。だったら、石も投げたって思うじゃないか」
「ちょっと待った。あれは猫を西野川の庭から追い払おうとしただけで、いたずらでやったわけじゃないよ」
 僕たちはお互い間違った推理をして、誤解していた。
 ひとまずここで、おかしくなって大笑いしてしまった。
 それが一段落したとき、また疑問が湧いた。
「だったらさ、哲司はなんで遥に近づいたんだよ?」
「それは、女子たちが遥の悪口を陰で言ってたの聞いたんだ。あいつ、西野川の孫だし、それで小学生のとき、いじめられて無愛想(ぶあいそ)になってただ ろ。そこにあれだけ顔が整ってたら、女の嫉妬もあっただろうし、いじめが再び勃発しそうだったんだ。それで俺たちが仲良くすればいいと思っただけだ。それ に俺、遥のこと好きだし」
「えっ!?」
 あまりにも自然に、恥ずかしげもなくいうから、僕はどうしていいかわからなかった。
「なんだよ、隠すことないじゃないか。やっぱりお前も遥のこと好きなんだろ」
「そ、それは」
 僕がとっさに否定しても、哲司はすでにお見通しだった。
 僕たちが遥を受け入れ一緒にいた理由。
 それはどちらも遥を好きになってしまったから。
 なんでこんな簡単なことに気が付かなかったのだろう。
 哲司は仲間を大切にする。
 一度仲間になった遥を利用して、西野川に制裁を加えることなんてする奴じゃない。
 余計な情報に惑わされて、僕は大切なことを忘れていた。
「とにかく、俺たちが遥を好きっていうことでいいじゃないか。それよりも今は石のことだ」
「もしかしたら、遥も僕が犯人だと思ってるのかな。だって、消しゴム庭に投げちゃったし」
「遥が俺に消しゴムを見せたとき、それはただ、こういうものが庭に落ちていたって俺に笑って教えてくれたんだ。俺はそれを見たとき、びっくりして、思わず賛太にきけっていってしまった。その時、遥はどんな感じだった?」
「好奇心に満ちた瞳で、僕を問いつめてたけど……」
 あの時の事を思い出しながら、それを自分で言ったとき、僕は『二つの事実』に気がついた。
 思わず、はっとして哲司を見つめてしまった。
「どうしたんだ、賛太?」
「やっぱり、遥に会いに行こう」
「今からか?」
「うん。そんなにここから遠くないしさ……」
 僕はその時、どんな顔をしてただろう。
 できるだけ落ち着いて笑ったつもりだった。
 哲司はきょとんとしていたけど、僕が歩き出せば後ろをついて来た。
 今までは、いつも哲司が先に行動し、僕が後ろからついていくばかりだったのに、なんだか僕はこの日、いつもの自分じゃない何かを感じた。

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