遠星のささやき

第2章

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 そして季節は夏。
 高校生活も中学の延長線に感じ、すっかり慣れてきていた。
 私は大人びようと背伸びをする。
 化粧をしては、先生に怒られ、お説教されることもしばしば。
 それでも懲りずに止めなかった。
 こういうところは頑固なのか、ただの意地っ張りなのか、それともプライドが高いのか、譲れないところ。

 サッカー部のマネージャーも板についてきて、先輩からもかわいがられる。
 人の世話をすること──。
 自分でも不思議なくらい面倒見が良いところがあった。
 特にそれが全て男達の場合、自分がしっかりして手玉に取ってしまうほど練習に集中できるように奮い起こさせる
 自分の弱みを見せずに完璧にやることこなして隙を見せない感じ。
 殆どのサッカー部員達は私のことを姉さん女房的に思っていた。

 頼られるのは悪くない。
 むしろそれが当たり前に思える。
 私に頼って正解だとでも言ってやりたい程に。
 そして同時に、男に甘えることは自分ではどこか許せない部分があるくらい、自分が 上に立たないと気がすまない性格だと気がついたのはこの頃だった。
 面倒見がいいと皆からよく言われるのもこの頃だったように思う。

 何をそんなに強がっているのだろうと不思議に思うこともある。
 三岡君が頼りがいのある男だっただけに、そういう男を求めすぎてただ自分がハードルを高く上げて越えてくれるのを待ってるのだろうか。
 やはりいつまでも三岡君は私の心の中でずっと居座る。
 あんな中途半端に終わってしまって何もできないまま未練がたっぷり残ってしまった。
 こんなこと佳奈美にも言えない。
 あの佳奈美では私の気持ちなど理解することは不可能だろう。
 特に会えもしない架空のキャラクターが好きだと夢中になってては、現実味のある恋の話など興味もないのが想像できる。
 あれだけ男の子の話題につきなかったのに、佳奈美とそういう 話もしなくなってなんだか寂しい。
 それとも身近な男の子にときめきを感じないことがただ寂しいだけなんだろうか。
 三岡君を好きになってから、自分が変わったように思えた。

 やっぱり彼に会いたい。
 もう一度側で一緒に過ごしたい。
 彼の名前を呟くと切なくて苦しくて胸に何かがつかえたよう。
 息を吐いて取り除こうとしても、ため息の回数が増えるだけで意味がなかった。

 そして、たまたま一人で賑やかな街へ買い物に出かけたときだった。
 しかも頼まれて自分の意思ではそこにいかないようなところへ嫌々出かけたときに限って、何かに操られたかのように偶然のことが起こる。
 そこに行けと導かれたかのように、この日思いがけないことに出会う羽目となった。
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