レモネードしゃぼん

その後 前編3


 早速、絶叫マシーンから乗ろうと樹里が提案するが、亜藍はどうも乗り気じゃない。
 眼鏡の正面を指で押さえ込み、考えるしぐさをする様子が、難しく捉えているように見えた。
 亜藍は常に非常事態を先に想像して、あれが無事な乗り物なのかと勘ぐり過ぎて結局は怖くなって乗れなくなる。
「でたよ、石橋を叩いても渡らない性格」
 樹里がぼそっと呟く。
「俺はここで見てるから、二人で乗って来い」
 案の定、辞退してきた。
 樹里が言い返すその前に、奈美は「仕方ないな」とあっさりと受け入れ、樹里を引っ張って列に向かった。
「奈美ちゃん、もっとお兄ちゃんのお尻叩かないと」
 樹里は物足りないと、今度は奈美に積極的になって欲しいと口出しする。
「亜藍のお尻叩いても、亜藍は変わらないと思う」
 奈美はにこやかに笑っていたが、樹里は少し理解できなかった。
 自分なら好きな人がどこか遠くに行くと知ってしまったら、いつも一緒に何かをしていたいと欲がでるだけに、どこまでも変わろうとしない二人に少し苛つきを覚える。
「奈美ちゃん、お兄ちゃんもうすぐ……」
 後は「居なくなるんだよ」と続けたかったが、その時絶叫マシーンらしく、派手に急降下するところで悲鳴が聞こえてきた。
 それに囚われて、奈美はそちらを見てしまい、樹里の話はそこで終わってしまった。
 不満ばかりが募ると、眉間に強くコイルが巻かれて行く気分になってくる。
 それと同時にこの先どうすればいいのか不安になってきた。
 樹里はここで諦めるわけにはいかないと意地もあり、青い空を見つめてもう一度やる気を募らせる。

 奈美と樹里が無事に乗り終わって、亜藍の元に戻ってくると、二人は体の中の何かが弾け飛んでいて、愉快に笑って楽しかったと報告する。
 亜藍もその様子を見てたとにこやかに答えていた。
 急降下したとき、大きく口を開けて悲鳴を出していた奈美の真似をしながら、からかっていた。
 奈美はそこまで叫んでないと反抗している。
 それなりに二人は仲良くしていたので、樹里はとりあえずはまずまずかと頬ましくその二人のやり取りを黙って見ていた。
「今度は何乗る?」
 樹里がパンフレットを見つめながら聞いても、奈美と亜藍はまだお互いのことで引けを取らずにいい合っている。
 亜藍が調子に乗りすぎてからかうものだから、奈美は乗らなかった亜藍に『意気地なし』と言ってしまう事で少し不穏な空気が流れ込む。
 これはいけないと、樹里は二人の間に入って、次のアトラクションへ自分の偏見で連れて行った。
「なんでこうなるのよ」と、側で見ていて余計にもどかしさのイライラが募ってきた。
 結局は後で亜藍が折れて謝っていたが、これもいつもと同じでやっぱり変わらず、どこまでも発展しない二人に樹里の笑顔が少し弱まった。
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