第十章
6
クレート達はシド艦長のゲストとして、手厚くもてなされていた。
これからはチームを組み、宇宙側の人間の気持ちを纏めて、ネオアースと話し合いを持つ機会を強く訴えて行く結束を高めていた。
色々意見を出し合った後、一番現実味を帯びて可能性があると思える方法だった。
まだ始まったばかりで、どのように広めて行くか具体的なことを聞かれたらはっきりと言えないが、少なくともここに居るものだけでも気持ちが纏まったことに、この先の行く末を明るく感じている。
シドはすぐさま、リーダー各の兵士たちを呼び集め会議を開いた。
色々と説明をするために、クローバーが借り出されて一緒に話し合いをしている。
エイリー族の立場を理解してもらうには、アクアロイドからの主張は実感が湧くというものだった。
少しずつ前進して行く。
とにかく目標を持って動けば変化がある。
それを信じてコツコツ運動を展開していくしかなかった。
その間、皆はご馳走を振舞われてのんびりと過ごしている。
「なんだか、俺たちすごいとこまで来たって感じだな」
豪快にフォークで突き刺した肉の塊をジッロは頬張った。
「ネオアースもすごく身近に感じてきたよね。俺たちも一緒にキャムと便乗できるなんて夢みたいだ」
「マイキー、今度はキャムのお母様だぜ。どうやって挨拶したらいいんだろうな」
「お母様っていっても、エイリー族だもんな。緊張するよな」
好き勝手に話していた。
全ての真実を知った今、二人にはエイリー族が憎いと思う感情が消えていた。
クレートは黙って窓際に立ち、宇宙を眺めては、期待と不安を一度に背負い込んで思いつめていた。
「クレート、まだ始まったばかりです。そんなに考え込まなくても。まずは何か食べて下さい。いつも僕が迷惑かけてばかりですから、クレートが体壊さないか心配です」
「大丈夫さ」
クレートはキャムの髪をくしゃっとして、申し訳なさそうにしているキャムの気持ちを紛らわせてやった。
キャムはそうされることで確実に心が穏やかになる。
クレートに触れられるとぽーっとしてきては、周り全体がお花畑になるような気持ちになってくる。
そんな余韻をずっと引きずっていたいと、キャムは目を瞑って素直に受け入れていた。
「そういえばさ、あのキャムを誘拐した男、どうしたの?」
マイキーの声でキャムは現実に引き戻された。
「あの男は、この船のどこかで監禁されてると思います」
「だけど、その後どうすんだよ。やっぱり処刑?」
ジッロはそうした方がいいと言う具合に、指先で銃を撃つ真似をしていた。
「わかりません。でも今日話し合った事を考慮したら、僕も過去のことにこだわらずに、もう水に流さなければならないのかもしれません。それができなければ、ネオアース側の交渉もできないような気持ちになります」
「しかし、こればっかりは犯罪だろ。やっぱり許せねぇぜ。ああいう男はずっと悪いことしそうだしな」
「そうだそうだ、キャムがあんな目にあったんだ。俺らが許せない」
二人は喋ることも食べることにも忙しそうだった。
クレートもキャムに言われてテーブルに向かい、料理をつまんだ。
スペースウルフ艦隊でリラックスできるとは思わず、前回の緊張した事を思い出しながら、それを口に入れた。
キャムがシドの子供であったことに大いに驚いたが、初めてシドを見たとき、どこか親しみを感じたのは、シドがキャムに似ていたからかもしれないと思った。
どことなく親子として似た部分がある。
多分あの目の形や、唇の厚さといった、良く見ないとわからないようなところが似ているかもしれないと思っていた。
ジッロとマイキーが言うように、母親は一体どんな風貌なのだろうか。
シドが未だに引きずって惚れているところをみると、キャムの顔を見てもその整った風貌から、かなりの美人なのかもしれない。
クレートもどのように挨拶すればいいのだろうと、つい考えてしまった。
ジッロとマイキーが騎士のように、キャムに纏わりついては、自分たちの感情をストレートに表している。
クレートにはやはりどこか抵抗があり、二人のようには割り切れないでいた。
キャムを目で追いながら、そこに置いてあった飲み物を手に取りぐいっと飲んでいた。
そしてその時ドアが開いて、誰かが入って来た。