第二章
2
三者面談は前回の時と同じで、担任から飛翔国際高校は難しいといわれた。
でも同じように頼み込んで受験することが決まる。
今度こそ受かる自信がある。あのノートを手にいれたのだから。
私は全てを頭に叩き込み受験準備をする。
「小渕君、サッカーの腕を買われているから、高校は受かったも同然だね」
再びあの時にも聞いた噂が耳に入ってくるが、あの時なぜあんなにも苛立ったのか不思議なくらいすっかり落ち着いている。
それよりも小渕司がサッカー部の先輩に足を怪我させられる事が気がかりだった。
なんとか助けられないものだろうか。
せめてもの、今までの私の罪滅ぼしのために。
前回、小渕司を怒らせたまま時が撒き戻り、なかったことになったとはいえ、納得できないわだかまりだけは心に残っていた。
半年程時間が遡ったことで、残りの中学生活を有難く過ごし、最後で明穂と仲良くなることもできた。
小渕司とは廊下で会うと少し緊張し、お互い意識したようになるけど、話題もなくあれから口は聞いていない。
まずは一緒に高校へ受かることの方が大事だった。
同じことの繰り返しをやり過ごし、全ては順調に進んでいった。
そして受験の当日。
やっぱり雨が降っている。
母が用意してくれたお弁当も豚カツが入ったあの時と全く同じものだった。
状況は同じで無性にドキドキとしてきた。しかし、気は抜けられない。
ここで気をつけなければならないのは、狭い道で車とすれ違う時、小さな蓋なし側溝に足を突っ込んでしまうこと。
同じ間違いはしない。
状況を変えるために早めに家を出て車とすれ違う事を避けた。
それも上手くいき、靴は濡れずコンディションもばっちりだ。
学校が近づくにつれ、色とりどりの傘が沢山集まってきていた。
色んな制服を着ている受験生がそれぞれの思いを抱えて受験に挑む。
学校の門をくぐったところで、見たような顔があって私はじっと見つめてしまった。
どっかで会った事がある。目が合ったとたん思い出した。
隣の席にいた菅井連だ。
この時点では起こってないことではあるけど。
彼も二次募集で安井高校へやってきたといっていた。
そうか、彼もまた私と同じ道を辿っていたのか。
そんなに仲が言い訳ではなかったけども、色々と助けてくれた――この時点で過去形を持ってくるのはおかしいけども、とにかくあの時お世話にはなった。
彼はこの先私が見た未来へと進むはずだ。
声を掛けたくなりそうになってしまうも、菅井はこの時私の事を知らない。
ただ、未来が決まっているとしても頑張ってと心の中で唱えていた。
そうして、建物の中に入ろうと傘を閉じた時、小渕司が私の隣で同じ動作をし始めた。
「あっ」
つい声を上げてしまい、小渕司は私に振り返った。
彼も同じように驚きすぐさま挨拶をしてくれた。
「おはよう。受験、同じ高校だったんだ。頑張ろうね」
にこっと微笑む小渕司は物腰柔らかく、優しい雰囲気がする。
私はその笑顔にドキッとしてしまった。
「うん。小渕君も頑張ってね」
ちょっとした声の掛け合い。
照れくさいようで、元気付けられるようで、私たちはくすっと笑ってしまった。
ピリピリして表情が硬くなっている生徒たちが、じろじろと私たちを見て追い越して行く。
私たちも気持ちを引き締めてその後に続いた。