第二話

14
 刻々と迫るタイムリミットは益々ローズを焦らしていく。
 自分の父親であるにも係わらず、自由に接触できないことに痺れを切らし、体当たりでぶつかることにした。
 イグルスが邪魔をしようと、強行突破でいくしか方法がなかった。
 朝早く国王の部屋に向かい、兵士達が不思議な顔で見ていたが、王女の特権をいかして突き進む。
 兵士達は突然のことに意表を突かれ動きが封じ込まれていた。
 だが勘のいい兵士は王女の行動がおかしいとイグルスに報告しに向かうものもいた。
 そして国王の部屋の前に来たときには、いち早くイグルスが待ち伏せをしていた。
「ローズ王女様、おはようございます。こんな朝早く、陛下になんの御用でしょうか。まだ陛下はお休みされております」
「あら、娘が父に会いに来てはおかしいかしら」
 平常心を試みたが、体のあちこちから並ならぬ焦りの気がでているのか、イグルスはふと厳しい目つきを向けた。
「とにかく、今は眠りを妨げては親子であっても失礼かと思います。陛下はとてもお疲れです。お父様として大切に思う気持ちがあるのでしたら、お察し下さい」
「とにかく父に話がある。そこをどいて」
 その言葉でイグルスにはピンときた。
 にやりと笑い余裕の笑みを返す。
「話なら私が変わりにお伺いしましょう」
「直接父と話したい」
「それならばもう少しお待ち下さい。そうすれば陛下もお目覚めになります」
「だから待てないの!」
 ローズはドアに手をかけようとしたが、イグルスはすっと近寄ってローズの腕を取った。
「無礼者。その手を離せ」
「いえ、そうはいきません。私は陛下に仕える身。例え王女さまであっても、陛下の眠りを妨げることは許しません」
「そんなのただの建前にすぎない。本当は私が何を話すのかが許せないくせに」
 イライラが募り、つい本音が出てしまった。
 イグルスは完全にローズの意図を知り、兵士を呼んだ。
「王女様を安全な場所へ隔離を。今日にもこの国の運命をかけた戦争が始まるかも知れぬ」
 イグルスは邪悪な笑みをローズに向けた。
「イグルス、貴様、そんなにも戦争をしたいのか」
 ローズは怒りに満ちて我慢できなくなり、そして大声で叫んだ。
「お父様! お父様! お話があります。起きて下さい。これからアゼリアお姉さまが敵の代表として話し合いに来られます。まずは一度話を聞いて、双方の誤解を解いて下さい」
 だが部屋の向こう側は静かだった。
 こんなに大声を出して暴れても、王は様子も見に来なかった。
「何をされても無駄なんですよ。陛下はここにはおりません」
「なんですって。お父様はどこなの」
「この戦が始まるまである場所にいらっしゃってお待ちいただいております」
「えっ、どういうこと?」
「この国はこれから滅び、新たな王が誕生するんです。そして今日はそのための戦が始まり、陛下はそこで敵に命を奪われるということです」
「ちょっと待って、そんな、それって」
「そうです、私が次の王となる訳です。この戦は全て私が仕掛けました。あなたの姉でいらっしゃるアゼリア様を騙してこの城から出て行くように仕向けたのも 私です。それは簡単だったんですよ。あなたの母親がアゼリア様よりもローズ様を後取りにしようと命を狙っていると嘘を吹き込み、実際そのような演出も致し ました。被害妄想がどんどん膨らんでは一人孤立していかれ、そして国民から無理な課税をして王国が邪悪なものだと刷り込みました。実際国王に隠れて私が税 金を沢山とっていたんですけどね」
「なんですって。それじゃ全て、あなたが仕組んだことだったの?」
「アゼリア様は国王の血を引きながら反分子となり、それが却って左翼的な考えを持つものからリーダー的に祭り上げられるいい要素になりました。私もアゼリ ア様と連絡を取り、国王が私の言うことにも聞く耳も持たず無茶苦茶な政治をして、どうにかしたいと裏でアゼリア様の肩を持つふりをしましてね、資金も流し てアゼリア様が国王を倒さなければならないと吹き込んで洗脳していきました。そうしてこの計画がどんどんと膨れ上がっていったという訳です。それなのにあ のゴロというのが現れて余計な事をするから困りものでした」
 ローズは唖然として聞いていた。
 敵はこんな近くにいたのかと思うと、それを見抜けなかった自分にも腹が立つ。
「そんなことはさせぬ」
「いいえ、もう手遅れです。そしてあなたも王女と言う身分はなくなる。それとも私と結婚すれば次の王妃にはなれますけど、いかがなさいますか?」
「そんなのいやに決まってるだろ! ふざけるな」
「私も実はいやです。王女様の生意気な男勝りのような振る舞いには辟易しておりました」
 ここでイグルスはわざとらしく恭しい礼を嫌味っぽくしていた。
 そしてローズは兵士に両腕を取られてつれられてしまった。
 しかし、遠くで王室エリアに忍び込もうとしていたダグはこっそりと一部始終聞いていた。
 驚きを隠せず顔を青ざめていたが、唾を飲み込み体に力を入れると誰にも気づかれないようにその場を後にした。
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