第四話
11
憧れが蔑みに変わり、真実を暴露すれば殺意を抱かせる。
予期せぬ展開に、絶体絶命──
どもども、ヨッシーです。
何せクライマックスなので、ここからは私が引き継ぎます。
いきなり私が割り込んだら、話の腰を折るみたいで調子抜けちゃいますかね。
でもここは私の見せ場でもあるんです。
今回はミステリー、ホラーそしてアクションを盛り込んでお送りしております。
そんな事はどうでもいいから続きを語れですよね。
それでは改めて、続きです。
ここからは私の視点で語らせて頂きます。
一体なぜ隆道をこんなにも狂わせてしまったのか。
勘のいい方ならお気づきかもしれませんね。
(一応謎解きです。わかりましたか?)
全ては杏里の企みが裏目に出て、変えたはずの過去は、未来を決める必然的な要因となっていた。
そして隆道の整形といけすかない性格を知ってしまった杏里は、これ以上仮面を被った隆道に耐えられなくなってしまった。
そこに絡んで来た5年前の死体なき殺人事件とシガラキ刑事。
なんの変哲もなかったことが、隆道には非常に都合の悪い自体へと追い込まれてしまった。
杏里はこうなることを予め予測し、姉に全てを説明しようとしていた矢先、合鍵を持っていた隆道が、寝静まった夜を狙って忍び込んできた。
迫る、隆道、殺される寸前の怯える杏樹と杏里姉妹。
いやはや、絶体絶命のその時、突然暗闇から「ハハハハハハハ」と軽やかに笑う声がする。
「そこまでだ」
颯爽と現われたその姿は、タキシードに身を包み、シルクハットを頭に乗せて粋に笑みを浮かべている。
「ヨッシー参上! タダーン」
ワタクシ、ヨッシーはぱっと杏里と杏樹の前に立ちはだかり、襲ってきた隆道を蹴り上げた。
バシッ!
キックは顎の下に入り込み、その威力は岩をも砕くくらいの勢いを持ち、その反動で隆道は宙を舞い、ドシンと床に転がった──
すみません、ちょっと表現を盛ってしまいました。
実際はナイフを持っていた手を「ていっ」と軽く蹴って、そのナイフが床に転がり、隆道が少し怯んだ程度でした。
私が急に現われたことで、かなりびっくりしてましたから、それだけでも充分みたいでしたけど。
「ヨッシー! ちょっと、これ何よ」
さっきまで恐怖で慄いていた杏里さんが、呆れた声を出し、この時、私を責めるの何の。
これが殺されようと慄いていた人かと思うほど、急に態度が変わってました。
私もね、一人で正義の味方を演じるのも寂しいかと思いまして、咄嗟に杏里さんと杏樹さんに、セーラームーンのコスプレを強制的に魔法で着せてしまいました。
ちょっとしたサービスです。
私も見ようによっては一応タキシード仮面ですからねぇ。
無理やりコスプレさせてしまったから、突然、パジャマからそんな服に変わって、驚かれましてね、でもまんざら嫌じゃなかった感じに見えたんですけど、気のせいでしょうか。
とにかく、ラストの結末は楽しくゴーゴーです。
なんで私がここで出てきたかといいますと、寝られなかった杏里さんは、私の写真を取り出しまして、お呼びになられたんです。
それで一部始終を聞きまして、もしかしたら、合鍵を持っている隆道が寝静まってから現われるかもしれないから、助けて欲しいと説明されたんです。
なんでそんな風に思われたのか、たかが、整形を指摘されただけで、隆道がなぜ殺しにまで来るのか、それはですね、杏里さんは全ての謎を解明されたんです。
少し遡りますが、隆道と言い合いをして、反対にやりこまれ、その時、杏里さんは隆道の冷血な目つきから得体の知れない不安を感じました。
その後もやもやとしながらアパートに戻られ、偶然ドアの前でシガラキ刑事さんともう一度会いました。
その時、シガラキ刑事さんが写真を持って『一体、この、茨木隆道はどこに行ってしまったのだろうか』と呟きました。
その写真を杏里さんはもう一度ご覧になった訳ですが、そこにはなんと整形前の隆道の姿ではなく、もう一人の幸の薄い目立たない男の顔が写ってありました。
ここで杏里さんははっと気がついたのです。
シガラキ刑事さんが探していた茨木隆道は、別人だったと。
杏里さんの知っている隆道ではなかったんです。
そこで杏里さんは引越しの手伝いをした時の事を思い出し、箱に入っていた写真の事を思い出されました。
あの時は整形後の隆道の顔を探してましたが、そこに写っていたのは目立たない方の男の顔だったのです。
それが何枚かありましたから、それらの写真が本当の茨木隆道であるならば、あの引越しはどういうことだと考えたのです。
あの部屋にあった物は全て本当の茨木隆道のものだったのかもしれない。
それなのに、偽って茨木隆道と名乗り、その部屋の中の全てのものを処分する行為の目的とは。
そしてその荷物を取りに来た人たちはガラが悪く引っ越し業者には見えなかった。
それを考慮していくと答えに行き着いたのです。
整形した隆道は、偽者で、あの部屋に住んでいた茨木隆道に成りすました。
その後、整形をし、元の顔ともおさらばしてしまい、新たな茨木隆道が出来上がった。
そう考えていくと、なぜそんな成りすましをするのか、そこで夜逃げをした女性の事も思い出し、自分が死んだことにして別の人間に生まれ変わるという手段をとって、遠くに逃げた意味を悟ったのです。
整形した隆道もまさに、過去の自分を捨てて、新たな人間になろうとしていた。
そうすると、本当の茨木隆道さんはいずこへ? となった訳です。
そこで整形した隆道の邪悪な表情が意味をなし、一気に恐ろしくなったと言う訳です。
本来存在している人の成りすましをするという事は、本人がいてはいつかはばれてしまう。
だったら、殺すしか──
キャー、まさにあのマンションでは本当に殺人事件が起こっていたという事です。
死体も証拠が残らないように上手く処分したのでしょう。
それを発覚されるのが、成りすました後の隆道には都合が悪かった。
たかが整形を気にしてたのではなく、自分が犯した犯罪の発覚を恐れてしまった。
そして杏里さんがシガラキ刑事さんとドアの前で話していたと、姉の杏樹さんは電話で余計な情報を隆道に漏らしてしまいました。
『うん、今帰って来た。ドアの前でシガラキさんと立ち話していたのよ。うん、また心配掛けてごめんね。分かった。それじゃお休み』
このシガラキ刑事さんと接触があったことを知られ、隆道は杏里が全て話してしまったと思ってしまった。
杏里さんも、真相に気づいてから、もしかしたらとハッと思って、対策を練ったということで、私がその晩呼ばれたという事なのです。
そして案の定、杏里さんが予期した通り、隆道が現われました。
そこでこの私が、ピンチを救ったのです。
それにしても、一応ヒーローとして正義の味方の役をしてますけど、良く考えたら私が自分で撒いた種ですね。
そして杏里さんの恋のお手伝いもできないまま、また悲惨な状況を作り出してしまいました。
これは成功なんでしょうか、失敗なんでしょうか。
私もわからなくなりました。
腹が立つから、また無駄な足掻きをして襲い掛かってきた偽者の隆道の頭を、思いっきりバチーンしてしまいました。
その後はチョチョイのチョイでSM顔負けの縛りを施して、そして後にシガラキ刑事に引き渡しました。
シガラキ刑事も、この整形した隆道を怪しいと睨んでいたそうで、尻尾を掴むために、付き合っていた杏樹さんも重要参考人として時々尾行してたそうです。
それが杏樹さんは後をつけられたと思って気味悪がってらっしゃったんですね。
そこで堂々と接触するために、近くに引っ越してこられたという訳でした。
呼ばれてないのに、厚かましく家の中に入り込んだのも、様子を探るためには仕方がなかったんですね。
このシガラキ刑事さん、この後杏樹さんの心の傷を気にしては、色々と気遣っていたみたいです。
見かけはアレですけど、とても人情味のある優しい人みたいです。
この後の始末はシガラキ刑事さんに任せ、この事件も一件落着しそうです。
今回はとんでもない展開になり、杏里さんには申し訳なく思います。
そして杏里さん自身も、自分のしたことで結果的に姉を傷つけてしまったことを悩んでいらっしゃいました。
だけど、犯罪者からお姉さんを守ってあげたことはよかったんですと、私ははっきり言いました。
こればかりは、知らないで過ごしている方が不幸でしょう。
そんな恐ろしいことをした人が、将来いい旦那さんになどなれるはずがないです。
何かのきっかけで、豹変する可能性を充分に備えてるんですから。
そんなこんなで、私の仕事も終わってしまいましたが、後味は非常に悪いです。
私の方が、もう一度チャンスが欲しいと杏里さんに頼んだんですけど、杏里さん懲りたのか即答で断られました。
私と係わったら、不幸になるとでも思ったのでしょうか。
でも、杏里さん、その後は吹っ切れたそうで、勉学に励んでおられるそうです。
そんな杏里さんなら、いつか素敵な人が現われることでしょう。
お姉さんの杏樹さんも、これに懲りて男は顔ではないと悟られたようです。
そしてなんと、あのシガラキ刑事さんとお付き合いを始められたそうで、西郷隆盛アンド狸面でもいいのかと、私が驚いてしまいました。
まあ、中身はいい人ですからね、それこそ、優しい誠実な人が一番です。
それにしてもまだまだ暑い。
そういえば、もう一つ仕事を受け持っていたんでした。
暑くて、すっかり忘れてしまいました。えらいこっちゃ。
まあ、そんなに急いでもないので待ってくれてることでしょう。
それよりも、暑い。私もガリガリ君買いに行こう。
そういえば値上がりしたんですよね、ガリガリ君。
あちらも、悩んだ末で、頭下げてましたね。
色々と世の中はありすぎて、一筋縄ではいかないもんです。
では、次こそ、頑張りまーす。
<第四話 The End>