第三章


 夜道をひとりで歩く僕は明日の事を考える。映見に会うのは嬉しくもあり、憂鬱でもある。
 連休で学校に行かなくていいのは楽だけども、折角の連休も『映見チャレンジ』――僕はこのゲームをそう名称した――を気にかけて過ごすのはあまり体が休まらない。
 連休残り四日となり、明日はお弁当もってピクニックの予定を勝手に立てられてしまった。一体どうなるのかと思っていたのだけど、急にそれどころじゃなく なってしまった。緊急事態発生。ばあちゃんが大変なことになったのだ。ばあちゃんとは未可子さんの母親だけど、僕とは血が繋がってない。
 でも未可子さんが僕の母親となってくれてからばあちゃんと接点ができ、未可子さんは僕を小さい頃からばあちゃんによく会わせていた。
 未可子さんと父との間で子供ができなかったから、血の繋がらない僕を孫のかわりと思っていたかもしれない。
 だけど僕が「ばあちゃん」と呼ぶと、一番喜んだのは未可子さんだった。
『私のお母さんは透ちゃんのお祖母ちゃんだよ』
 それを聞いていたばあちゃんは自分がお祖母ちゃんになる歳じゃないと嫌がって抵抗してたけど、ばあちゃんも未可子さん同様、会えば僕をかわいがってくれた。
『おっ、透、遊びに来たのか。ちょうど冷蔵庫にプリン入ってるぞ』
『ほら、これ着てみるか。透の好きなキャラクターがでかでかとついとるじゃろ』
 僕の好きなものを事前にリサーチして、僕の気を引こうとして色んなものを用意していた。僕は緊張しながら、それを素直に手にしていた。
 それを受け取った時のばあちゃんの綻んだ顔は今でもはっきりと思い出せる。
 喜んでいるばあちゃんの顔を見た後で、「私のお母さんはとても苦労した人だったわ」と未可子さんが目じりを拭いながらぼそっと言っていた。
 未可子さんが小さいときに離婚し、自分の父母の実家で助けを得ながら働いて未可子さんを育ててきたらしい。
 ばあちゃんの両親が他界してからは未可子さんとふたりで暮らしていたけど、僕の父と未可子さんが結婚してからひとりで暮らすようになってしまった。
 未可子さんも母親一人残して心配だっただろうに、僕を優先して僕を育ててくれた。
 そして未可子さんがいなくなった後、ばあちゃんの面倒を見られるのはこの僕しかいない。だからばあちゃんからスマホの電話が入って取り乱した声を聞いたとき心臓が止まるかと思った。
「透、至急帰ってきて」
「ばあちゃん、どうしたの?」
「ぎっくり腰で動けない。いたたたた」
「わかった、すぐ行く」
 ちょっとしたパニックだった。
 僕は大急ぎでばあちゃんの元に駆けつければ、ばあちゃんは居間の畳で顔を歪めて転がっていた。
 二階から布団を下げて、とにかくばあちゃんを寝かす。ほんの一メートル移動させるだけでも一山越えようとするくらいの大変さだった。
「ありがとうな」
 布団の上に無事に寝転べたばあちゃんは苦渋の顔で礼を言う。
「救急車呼ばなくて大丈夫なの?」
「病院に行ってもこれは治らないんだ。暫くは薬飲んで安静にするしかない。三、四日くらいで少しはましになるだろう」
 これじゃトイレに行くのも大変そうだ。僕はばあちゃんが動けるまで傍にいることにした。
 だから、映見チャレンジもやむなくキャンセルするつもりだった。
 その日の夜のうちに映見にメールすれば、すぐに電話が掛かってきた。
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