良いも悪いも消しゴム・ガロア


 夏休みが終わり、始業式のこの日、宿題を抱え、久しぶりに教室に入った。
 話が弾んだざわついた教室。
 日焼けした生徒たちと、机の上に乗ったノート類や作文の原稿用紙、それぞれの工作が目に入った。
 僕も同じようにそれらを机に置けば、何人かのクラスメートが、僕の作った工作を見に来た。
 その中の一人が不思議そうに僕に問いかける。
「なんでサンタクロースがいっぱいついてるの?」
 僕は紙皿にサンタクロースの消しゴムと、自分の写真を貼り付けた壁掛けを作った。
「クリスマスシーズンの飾り物だよ」
「あっ、サンタの賛太か!」
 上手いジョークだと思ったのか、その子は笑った。
 哲司もその時、そばに来ていて、「ほら、ピッタリの代物だっただろ」と、得意げな笑みを浮かべていた。
「ねぇ、哲司は何を作ったの?」
 僕はてっきりあの時拾ったもので、何かを作ったと思っていた。
 でも、哲司が見せてくれたものは全然関係ないものだった。
「万華鏡」
 哲司はそれを僕に見てみろと手渡した。
 確かに上手く作れていた。
 結局はあのとき拾った石は、必要なくなったのだろう。
 そのときは深く考えず、漠然的(ばくぜんてき)にそう思っていた。
 やがてチャイムがなり、担任の先生がやってきた。
 久しぶりに会ったからクラスは活気づいていた。
 先生の一通りの形式的な話がすむと、次は体育館へと足を運んだ。
 そこで始業式恒例の校長先生の一人舞台が始まる。
 長々と続く、つまらない話。
 次第にあくびも出てくる。
 そんな退屈な時間が早く終わらないかと思ってた時だった。
「……えー、ですから、新学期もみなさんがんばってください。それと、もう一つ新学期そうそう残念な事を伝えなければなりません」
 急に体育館の雰囲気が悪くなったように思えた。
 何か良くない事が起こったに違いない。
 僕もそうだが、周りのみんなも緊張して、校長先生を見つめた。
「実は、先日、教頭先生のお庭の池に石を投げ込んだ人がいるそうです。犯人は誰だかわかっていません。これはとても残念で悲しい事です。こういういたずらは絶対にしてはいけません」
 できるだけ優しく語ろうとしている校長から少し離れた場所で、当事者の教頭は僕たちをにらみつけていた。
 犯人がまるでこの学校の生徒だと決めてかかっているようだった。
 その時、僕はなぜか胸がドキドキとしてしまった。


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